赤池三男第十八話「- 国会のヤジ -」(H25.1.25)


 通常国会が開催された。今国会は、自由民主党が政権復帰をした会である。
税制や社会福祉、災害復旧など難題も多い。白熱した議論が展開されるだろう。
 
 国会では、議員諸氏がそれぞれの考えや意見を持っている。
発言権を得られない議員が、議場の自席で、大声で意見を言うことが有る。
いわゆる野次である。
 
 国会では野次は「不規則発言」として禁じられている。
国会法ではその他に、無礼な言や他人の私生活にわたる言論をしてはならない、
ともある。
侮辱を被った議員は、議院に訴えることが出来る、とある。
質問を正当に与えられた議員さんの発言を邪魔することになるからであり、
議場の秩序を乱すからである。
 
 正当な発言ではないが、なる程!と思うものや、
片苦しい議場の雰囲気を和ませる野次も無いわけではない。
 
 数年前、野次の中に、院に御臨席の皇室を批判する他の議員に聞こえる
ツブヤキヤジをしたとして、問題になったことが有る。
 
 また、ある時の本会議場で質問中の議員に、筆舌に表せない、
下品な野次を飛ばした数人の議員があった。
怒った質問議員は、ヤジった議員に机上のコップの水を浴びせ掛け、
水を掛けた議員が処罰の対象に成ってしまった。
 
 不規則発言は、原則として、速記録にも残さないことに成っている。
 
 ある時、野次を速記に残したものがある。
残さなければならない事態が有ったからである。
 
 ある時の衆議院の委員会。
ときの総理大臣の資産問題が、国税庁の課税姿勢が問われていた。
 
 「国税庁は、総理大臣の資産調査をきちんと遣っているか、確り遣っていると思うが—」
と発言があって、国税庁の政府委員が「確り遣っています」と答弁しようとしたときに
(遣っていないのではないか!)と野次が飛んだ。
 
 国税庁政府委員がヤジに応えて「そんなことはありません!」と胸を張って答えた。
議場の雰囲気はそれでよかった。
 
 二週間後に出来上がった速記録を読むと、国税庁は総理大臣の税務調査を確り遣れ!
との質問に、そんなことはありません!と否定した答えになっていた。
 
 議場の雰囲気を知っている者だけにしか理解出来ない発言記録となった。
答弁者が、ヤジに応えたからである。そして野次は、記録にあらわれていない。
 
 昭和中頃の時代である。本会議で某大臣が答弁中に、
野党の議席から痛烈な個人攻撃のヤジが飛んだ。
大臣の女性問題を、週刊誌が報じたスキャンダルだった。
議場の誰もが、大臣は壇上で、うろたえると思った。
 
 大臣は落ち着いたゆっくりした言葉で答えた。
「私は(問題になった)この女性を心から愛しております。
妻と同様に、この女性の人生の最後まで面倒をみるつもりです」と答えて、
かえって議場を納得させてしまった。
 
 また、ある野党党首が本会議で、政府を鋭く追及する質問中に、
与党議席から不規則発言(野次)が飛んだ。
(妾が二人もいる奴が、生意気な事を言うな!)議場に響き渡る野次に、ひるむと思いきや、
その党首は胸を張って平然と答えた。
「(妾は)二人じゃアない!三人だぁ!」。
野次を飛ばした与党議員ばかりか、議場が笑い転げた。