税理士並河の税界よもやま話⑰(H21.8.31)

★景気とくらし
今回の衆議院総選挙ではマスコミの下馬評どおり民主党の圧勝による政権交代になりましたが、政策云々よりも今の暮しの環境に対する不満が政権に「チェンジ」を求めたという点で先きの米大統領選挙におけるオバマ勝利に若干似ているように感じた。
景気とは経済活動の状況をさしますが、1年前のリーマンショック後はどこへ行っても不景気一色で、極めつけは8月28日に総務省より発表された7月の完全失業率が過去最悪の5.7%を記録したことです。
8月17日にGDPの4~6月期速報の発表があり、5四半期ぶりに実質GDPがプラス成長(年率換算3.7%)になりました。
ただしその中身(寄与度)は政府の景気刺激前倒し効果の公共投資と輸出によるもので肝心の個人消費や民間設備投資等は弱いものです。
景気自体は常に好況・不況と循環しているものですが、気になるのは景気が良いと言われた時でも中小企業や町の商店主そしてサラリーマンの暮らしや懐具合が常によくないということです。
好景気による企業収益の増加は即家計所得の増加につながっていたかつてのメカニズムが働かなくなっており、市場原理主義の考えのもとで企業は儲けを借入金の返済、内部留保の充実に努める一方、消費者は給与収入の減少、雇用や将来の不安から消費を控えるといういわゆる「合成の誤謬」によって経済は収縮の状態が続いています。
この需要不足を補うため国は860兆円の借金(今年6月現在)を抱えながら有効需要創設のためさらなる国債を発行して公共投資を行い、景気回復の呼び水を行っていますが、成熟経済に入っている日本ではかつてのような政策効果が出ないという深刻なジレンマに陥っています。
★今はなき経済企画庁
私は昭和53年に東京国税局から経済企画庁経済研究所へ2年間出向してGDPの財政部門の推計に携わりました。
経済企画庁は経済白書等を発行しており私のような経済学部出身者にとっては憧れの官庁でしたが、中に入ってみるとそこは各官庁や民間からの寄せ集まりで何をするにも組織的な意思決定がなされず、霞ヶ関の他の官庁同様に予算の獲得に多大なエネルギーを割き、税の無駄使いを目の当たりに見てしまいいささか幻滅してしまった。
マクロ経済の代表的景気指数であるGDP統計は経企庁経済研究所で発表していましたが、国の経済政策の成果という性格上「大本営発表」となる傾向があり、四半期速報の一時速報はエンピツをなめたような高めの数値が出て二次速報で下方修正されることがよくあります。
この実質GDPの成長率はマクロの景気対策として使えても国民のくらしの実感といった判断に役には立たない。(昭和の時代はそれがお互いにマッチしていましたが)
2001年(平成13年)の中央官庁再編で経企庁は沖縄開発庁などと共に内閣府に統合され事実上消滅しました。
★新しい政府と税制
今度与党となる民主党は中小企業にとって悪法である特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入について廃止を主張していたのでこれを早期に是非実現して欲しい。
民主党のマニフェストの年金関係では社会保険庁と国税庁を統合して歳入庁とし、税と保険料を一体的に徴収すると書いてありました。
この話はかなり前から議論されてきており、杜撰な年金管理をしている社会保険庁とシビアな仕事をする国税庁が一緒になれば確実に効率よい徴収が想定されますが、税と年金保険の性格の違いや所掌官庁がそれぞれ厚生労働省と財務省ということで簡単に決着しそうにはありません。
納税者側としてはむしろ国税と地方税を一体化してもらった方が簡素化して行政の効率もよくなるように思います。
今後は新しい政府による税調ができ、従来からあった租税特別措置法や所得税の人的控除等の見直しが検討されそうです。
いずれにせよ新しい政権のもとで時代の大きな転換期に日本丸が新たな船出をしたわけですが国がよりよい方向へ進むことを期待を込めて見守っていきたい。