赤池三男第十二話「- ノーベル賞と所得税法 -」(H24.6.25)

 昭和24年、湯川秀樹さんが、日本で初めてノーベル賞を受賞した。そのときは日本中が喜んだ。敗戦で荒廃していた日本人の心に陽が射した。
 湯川さんは、中間子の研究だった。
 受賞のメダルの他に賞金が100万円だそうで、当時にしては、破格な金額だった。当時の宝くじの最高額が100万円だったころである。
 世界に誇る、湯川博士の受賞の偉業に、わが国では所得税を課することが話題になった。国民の多くが、割り切れない気持ちになった。そして、急遽、非課税措置をとった。所得税法第9条(非課税所得)である。
 湯川博士が受賞して以後、ぞくぞく日本人の受賞者がでた。現在、わが国では18人いて、化学、物理学でそれぞれ7人。出ていない賞は経済学賞だけだという。
 日本国民はそろそろ、19人目、20人目が出ることを望んでいます。
 平成14年には、サラリーマン研究家の田中耕一さんが、化学で12人目の受賞者となった。田中さんが受賞した当時の小泉総理大臣は「科学技術立国日本として誇れる快挙」と喜んだ。日本人として誰もが喜んだ。余談だが、その時小泉さんは「私は、ノーベル賞は貰えないが、飲めるショーくらいは—」と洒落た。
 ノーベル賞は、スウェーデンの科学者アルフレッドノーベルさんが、ダイナマイトを発明して、莫大な資産を残した。
 しかし、ダイナマイトは、平和利用だけではなく、戦争や人殺しに使用されていることを悔いて、財産を世界平和に寄与した人に与えたい、としたのが発端。
 さて、その後のノーベル賞の賞金だが、1,000万スウェーデン・クローナで、日本円に換算すると1億1200万円に相当するらしい。
 この度、財産難で、資金管理のスェーデン国では、額を800万スウェーデン・クローナ(9,000万円)に引き下げるそうである。
 湯川博士の受賞で、わが国では急遽、所得税法で非課税措置をとったが、その後多くの項目が非課税措置に加わった。当初、第9条の非課税条文はノーベル賞だけだったが、いまや同条には、日本学士院、日本芸術院、オリンピック競技大会等で授与される金員等が、追加項の非課税になっている。
 研究学術で、お役に立ったものは、非課税措置を—が趣旨であろう。この中にオリンピックが加わっているのは、クーベルタン男爵の「オリンピックは参加することに意義がある」の思想は金銭にかかわるように変化したのであろうか。