税理士並河の株談義(その1)【H24.10.12】

株談義(その1)

1 日本の株価低迷理由
 最近は政治同様、株の話題で座が盛り上がるという光景はとんとお目にかからなくなりましたが、日本は資本主義の経済体制である以上、株式市場がなくなることは永久にありません。
 盛り上がらない理由はただ一つ、相場が長期にわたって低迷してみんなが株で儲けることができにくくなったからです。
 日経平均株価の過去最高値は1989年(平成元年)12月29日の38,957円ですから、現在の8千円~9千円台の株価水準は往時の4分の1以下となり、これではほとんどの人が儲けられないのは無理もありません。
 以前から日経平均はニューヨークダウ(正確にはシカゴの日経先物)を受けて始まり,NYのコピー相場といわれていますが,NYの方はリーマンショック後も高水準を維持しているので、日本株の低迷が余計に目立ちます。
 株式相場の母体を成す日本経済自体がバブル崩壊後海外とは異なり、デフレスパイラルに陥り、株価だけでなく地価、物価(卸売、小売とも)下げ続け、いまだに出口が見えません。
 この間に経済のグローバリゼーションは進み、円高基調は変わらないため、日本の製造業は海外移転して国内は空洞化し、大手企業の連結決算の利益は国内より海外での稼得となっている状況です。
 証券業の活性化のため低金利政策の恒常化や上場株の譲渡益10%課税、配当の10%課税といった税制面からの支援もあまり効果がありません。
 現在割安に放置されている日本株に内外の投資家が新たな資金を投入するには、日本経済、企業に「新たな成長性」を持たせることが必要であり、そうしないといつまでもジリ貧状態が続きそうです。
2 今はなき北拓(拓銀)への想い
 私が株に興味を持ったきっかけは実家の母が昭和35年頃から株をやっているのを見ていたからです。
 当時池田内閣のもとで所得倍増論が提唱され、高度成長が始まって「貯蓄から投資へ」という時代に、母は雑貨屋という商売人の家で育ったせいか、株を熱心に研究し、ラジオの短波放送で株の実況中継を聞いていた。
 私は大学4年になって就職するのは地元有力企業の北海道拓殖銀行に決めていたので仙台から上京して拓銀の面接試験を受けたところ不合格となり、ショックを受けてしまった。
 拓銀(本州では北拓と呼ぶ)はご承知の通り、平成9年(1997年)に経営が破綻して北海道分は北洋銀行、本州分は中央信託銀行に事業譲渡された。
 明治23年(1900年)北海道拓殖銀行法という特殊銀行法によって設立し、その後都市銀行になりましたが、1世紀にわたって北海道の発展のリーダー役となっていた拓銀がつぶれることは有り得ないことと思っていた。
 私にとって面接試験に落ちたので振られた昔の恋人のような妙な心境も多少ありましたが、「拓銀イコール北海道」という認識なので、バブル期にカブトデコム等の不動産開発投資で不良債権が増大したからといって破綻にまで追い込まれるのは「国が北海道を見捨てるつもりか」という憤りを覚えたものです。
 拓銀の面接に失敗して落胆しましたが、日清紡へ就職したゼミの1年先輩が同社の勧誘に来たので面接を受けたところ、運よく採用になった。
 日清紡を受けるきっかけは同社の会長に財界四天王の一人櫻田武氏がいたこともありますが、なんといっても東京証券取引所で日清紡は平和不動産、味の素、東京海上、日本郵船と並んで特定銘柄に指定されていたことによります。
 入社時の研修で東証の見学があり、特定銘柄として特別扱いされて優越感を味わうことができた。
 しかし入社した年の秋口に特定銘柄に入れ替えがあり、日清紡と味の素が外れて松下電器と本田技研という東証での取引量が期待される銘柄に取って代わられ、トホホでした。(特定銘柄制度は1978年に廃止、その後の指定銘柄制度も1991年1月まで)
3 個別銘柄と株価
 上場されている会社の株価はまさに格差社会の象徴というべきもので、会社の価値が株価という金額で表示され、毎日のようにそれが変動しています。
 上場会社の社長はじめ経営陣は会社の勤務評定である株価には大層気を使い、悪い会社は、特に株主総会において業績、株価、配当については株主より厳しく追及されます。
 株価形成の要因はいくつかあり、会社の決算内容である損益計算書、貸借対照表(過去・現在・近未来)が大前提ですが、株には美人投票のような理屈を超えた部分も含まれます。 会社四季報などで大株主の欄を見ますと「年金基金」である日本マスター信託口(三菱東京UFJ信託銀行出資)、日本トラスティ信託口(りそな、住友信託、三井トラストHD出資)が上位にあり、生保、銀行それに自社(自社株買)といったものまであります。
 かつてのように個人の玄人筋、仕手グループによる買い占めや仕手戦といったことが市場環境や法規制でできにくくなって、経済小説にあるようなドラマチックではなくなり、ワールドワイドでマーケットを考える時代になってきています。
 最近のJALの倒産と早期の再上場や原発事故に端を発した東京電力等の電力株の動きを見ていると株はもう結構と思う反面、銀行金利を眺めると、1年定期の金利が銀行により差があるが0.025%~0.3%とただ同様な利率であり、思わず考え込んでしまう。
                                (続く)