赤池三男第25話「-案内窓口の話-」(H25.10.1)

 会社や役所では窓口案内を置いている。来所者が、まず接するのは受付窓口。一流会社は一流らしく、玄関を入ると大きな案内机に若くて綺麗な?案内嬢を置く。会社の顔的存在である。
 客は極めて事務的な処理をされる。行く先を告げると担当に電話で確認を取る。こんな案内ならば、むしろ置かない方がよいと思うこともある。

 在る権力官庁の窓口で来所者が揉めている。案内嬢が「ご用件は?」と高飛車に聞いたらしい。来所者は「呼ばれたから来たのだ。俺は帰る!」
どうやら出頭要請だったらしい。
 

 某国税局調査部の税務調査。本社から離れた工場の調査の為、敷地内に入ろうとした。身分証明書を見せたらガードマンは「お聞きしています。ご苦労さまです!」と工場建物を指した。
 ロビーの大きな案内机には若い女性が3人。派遣社員か臨時雇いらしい。
 調査担当官が社内に向かおうとしたら、受付書を示し「ここに行き先と用件を書いて下さい!」と窘める様に、しかも大声で言った。「書かなくてはいけないの?」国税局職員。「当然です!」と案内嬢。
仕方なく来社書に「日付、時刻・あなた様の社名、名前・電話番号・行き先・用件」を記入した。
 「8時45分」「国税局調査部統括国税調査官ほか5名」「社長室および経理部長室」「税務調査」と記入し、ペンを置いて「これで入れて貰えますか?」。案内嬢は胸を張って「どうぞ!」
 仕事が佳境の三時ごろ、経理部長に「当社の案内嬢は確りしていますねぇ。

今朝、来社書に記入しないと入館出来なかったです」。話を聞いた経理部長は顔色を変え、転がる様に一階受付へ。当該ページを破って持ってきた。8時45分以降の来社者総てが、当社に税務調査が入ったことを知ってしまった。 
 

 案内嬢に「名刺を下さい」と言われ、名刺を渡した。
 渡された名刺を案内嬢は相手に電話口で、大声で読み上げた。「国税局統括国税調査官〇〇様がご用件で参っています」ロビーにいた数名の客は、一斉に会社から出て行ってしまった。 
 

 あっぱれな案内嬢のはなし。
 東京銀座の一等地を老夫婦が所有していた。大資本家が争って譲渡を希望して、幾度と無くアタックしていた。
 老妻が申し出を断りに東京城北区の某本社を訪問した。
 冬のその日は、霙が激しく降る寒い日だった。老妻は、着物と足袋がびしょ濡れになりながら、やっとの思いで本社に辿り着いた。その姿を見た案内嬢は、見知らぬおばあさんの足袋を脱がせ、着物の雪を払い、温かい部屋に案内して温かい飲み物を進めた。
 その間、一度足りとも「どなたさまですか」「どちらへ」「どんな御用で」と聞かなかった。もっぱら、老婆の健康を気遣った。その対応に老妻は感激し、「この様な心温かい会社であれば、銀座の土地を売っても良い」と心変わりした。出てきた役員にその旨を申し出て、目出度くこの会社に譲渡したという。今は、銀座の一等地のビルに看板ネオンが誇らしげに輝いている。