生前にできる相続対策5つのポイント

相続対策とは、相続税の負担を適正に抑える「節税対策」、遺産分割のもめごとを防ぐ「争族対策」、納税資金を確保する「納税資金対策」の3つを、被相続人が元気なうちに計画的に進めることをいいます。相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内と短く、亡くなってからできる対策は限られます。本記事では、生前にできる代表的な5つのポイントを解説します。

相続対策は、被相続人が元気なうちに計画的に進めることが重要です。生前に適切な対策を講じることで、相続税の負担を軽減し、遺産分割に関するトラブルを防ぐことができます。本記事では、生前にできる相続対策として特に重要な5つのポイントを解説します。

ポイント1:暦年贈与の活用

贈与税には、毎年110万円の基礎控除があります。この基礎控除を活用して毎年少しずつ財産を移転する方法を「暦年贈与」といいます。

暦年贈与の仕組み

注意:相続開始前7年以内の贈与の加算

2024年1月1日以降の贈与について、相続開始前7年以内に行われた暦年贈与は、相続財産に加算されます(従来は3年以内)。この変更は段階的に適用され、2027年1月1日以降の相続から完全に7年間の加算が適用されます。

なお、延長された4年間(4年前〜7年前)の贈与については、合計100万円までは加算対象から除外されます。

暦年贈与の注意点

ポイント2:生命保険の活用

生命保険の死亡保険金は、相続税の計算において非課税枠が設けられています。

非課税限度額

計算式 具体例(法定相続人3人の場合)
500万円 × 法定相続人の数 500万円 × 3人 = 1,500万円が非課税

例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人の場合、死亡保険金のうち1,500万円までは相続税がかかりません。

生命保険を活用するメリット

ポイント:契約者(保険料負担者)=被保険者=被相続人、受取人=相続人という形で契約することが、相続税の非課税枠を活用する基本的なパターンです。

ポイント3:不動産の活用(小規模宅地等の特例)

相続財産に不動産が含まれる場合、小規模宅地等の特例を活用することで、相続税評価額を大幅に減額できます。

特例の概要

区分 限度面積 減額割合
特定居住用宅地等(自宅の敷地) 330㎡まで 80%減額
特定事業用宅地等(事業用の敷地) 400㎡まで 80%減額
貸付事業用宅地等(賃貸アパート等の敷地) 200㎡まで 50%減額

例えば、自宅の敷地の相続税評価額が5,000万円(面積300㎡)の場合、特定居住用宅地等の特例を適用すると、5,000万円 × 80% = 4,000万円が減額され、評価額は1,000万円になります。

特例の適用要件

不動産の評価減:現金を不動産に変えることで相続税評価額を引き下げる効果もあります。現金1億円はそのまま1億円として評価されますが、土地は路線価(時価の約80%)、建物は固定資産税評価額(時価の約50〜70%)で評価されるため、評価額を大幅に圧縮できます。

ポイント4:遺言書の作成

遺言書を作成しておくことで、遺産分割に関するトラブルを防ぎ、被相続人の意思を確実に反映することができます。

遺言書の種類

種類 特徴 メリット・デメリット
公正証書遺言 公証役場で公証人が作成 確実性が高い。紛失・偽造のリスクがない。検認不要。費用がかかる
自筆証書遺言 本人が全文を自書(財産目録はPC作成可) 手軽に作成可能。費用がかからない。形式不備のリスクあり

自筆証書遺言の法務局保管制度:2020年7月から、自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預けることができる制度が始まりました。法務局に保管された遺言書は、家庭裁判所の検認が不要となり、紛失や偽造のリスクも軽減されます。保管手数料は1件あたり3,900円です。

遺言書の作成にあたっては、公正証書遺言が最も確実でお勧めです。費用はかかりますが、法的な有効性が担保され、相続開始後のトラブルを大幅に減らすことができます。

ポイント5:養子縁組の活用

養子縁組を行うことで法定相続人の数を増やし、相続税の基礎控除額を拡大することができます。

基礎控除への効果

相続税の基礎控除額は以下のとおりです。

3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

法定相続人が1人増えるごとに、基礎控除額が600万円増加します。

養子の数の制限

相続税の計算上、法定相続人に算入できる養子の数には制限があります。

条件 法定相続人に算入できる養子の数
被相続人に実子がいる場合 1人まで
被相続人に実子がいない場合 2人まで

注意:養子縁組が相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、税務署長はその養子を法定相続人の数に含めないことができます(相続税法第63条)。純粋な節税目的のみの養子縁組は否認されるリスクがあります。

養子縁組のその他の効果

相続時精算課税制度の改正

2024年1月1日以降の贈与から、相続時精算課税制度にも年110万円の基礎控除が新設されました。

改正のポイント:

  • 相続時精算課税制度を選択した場合でも、年110万円までの贈与は贈与税がかからず、相続財産にも加算されません
  • 従来の2,500万円の特別控除(累計)に加えて、毎年110万円の基礎控除が使えるようになりました
  • この110万円の基礎控除内の贈与は、暦年贈与のような相続開始前7年以内の加算ルールの対象外です

この改正により、相続時精算課税制度は従来よりも使いやすくなりました。特に、高齢の親から子や孫への贈与では、暦年贈与よりも有利になるケースがあります。

まとめ

生前の相続対策は、早めに着手することが最も重要です。暦年贈与による計画的な財産移転、生命保険や不動産の活用による節税、遺言書の作成によるトラブル防止、養子縁組による基礎控除の拡大など、それぞれの家庭の状況に応じた最適な対策を組み合わせることが効果的です。

ただし、相続対策は税務だけでなく、民法上の遺留分や家族関係なども考慮する必要があり、専門的な判断が求められます。相続対策をお考えの方は、ぜひ早い段階で専門家にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q. 相続対策はいつから始めればよいですか?

A. 早ければ早いほど選択肢が広がります。暦年贈与のように毎年少しずつ移転していく方法は年数がかかり、生命保険の加入は健康状態によって制約を受けます。相続が起きてからでは、遺言書の作成や生前贈与といった手段は使えません。60代に入ったら財産の棚卸しから着手されることをおすすめします。

Q. 相続税の申告期限はいつまでですか?

A. 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。この期限までに申告と納付を済ませる必要があります。小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減は、原則として期限内申告が適用の要件となるため、遺産分割が難航しそうな場合は早めの着手が重要です。

Q. 生前贈与をすると必ず相続税が減りますか?

A. 必ず減るとは限りません。相続開始前一定期間内の贈与は相続財産に加算される取扱いがあり、また相続時精算課税を選択した贈与は原則として相続財産に持ち戻されます。名義預金と判断されて贈与が認められない例もあります。贈与契約書の作成や資金移動の記録など、形式面を整えることが不可欠です。

参考にした一次情報(出典)

  • 国税庁が公表するタックスアンサー(よくある税の質問)および各種パンフレット等の公表資料
  • e-Gov法令検索(デジタル庁)に掲載されている関係法令の条文

実務の現場から:当事務所には、生前のうちに「何から準備すべきか」というご相談が多く寄せられます。相続は税額だけでなく分割の問題も伴うため、早期の全体設計をご提案しています。

ご注意(免責事項):本記事は2026年8月3日時点の法令および公的機関の公表資料にもとづく一般的な解説です。税制・社会保険制度は改正されることがあり、同じ制度でも個別の事情によって取扱いが変わります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士など専門家にご相談ください。本記事の情報にもとづく判断により生じた損害について、当事務所は責任を負いかねます。

税理士法人みらい(税理士法人番号 第1218号)/〒202-0002 東京都西東京市ひばりが丘北3-4-1 みらいビル2F/TEL 042-422-7440/初回相談無料。昭和58年開業・平成18年法人化、ISO9001認証取得。元国税局OBを含む税理士4名と税務・会計スタッフを合わせた総勢17名の体制で、税理士法第33条の2の書面添付制度にも対応しています。

この記事の執筆者

税理士法人みらい(税理士法人番号 第1218号/東京都西東京市ひばりが丘)。昭和58年開業、平成18年に法人化し、2023年に開業40周年を迎えました。ISO9001認証を取得し、品質管理体制のもとで税務会計サービスを提供しています。元国税局OBを含む税理士4名と税務・会計スタッフを合わせた総勢17名の体制で、税務調査対応や書面添付制度(税理士法第33条の2)にも対応しています。

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