人材投資とは、従業員の知識・技能の向上を目的に、研修・教育訓練・資格取得支援などに資金を投じる経営活動をいいます。人手不足が深刻化するなか、中小企業にとって人材投資は競争力維持の要となりますが、訓練経費や訓練中の人件費は負担となります。この負担を軽減する手段が、厚生労働省の人材開発支援助成金(訓練経費・賃金の一部を助成)と、賃上げ促進税制の教育訓練費上乗せ(租税特別措置法第42条の12の5)です。助成金は支出の補填、税制は税額の軽減という異なる効果を持ち、それぞれの要件を満たせば組み合わせて活用できます。本記事では、人材投資と助成金・税制の活用を税理士法人みらいが整理します。
人材投資と人材開発支援助成金とは
人材投資を支える主な公的支援は、助成金(厚生労働省)と税制(賃上げ促進税制)の2本柱です。
| 支援 | 効果 |
|---|---|
| 人材開発支援助成金 | 訓練経費・訓練中賃金の一部を助成(収入) |
| 賃上げ促進税制の教育訓練費上乗せ | 教育訓練費が前年度比5%以上増で控除率+10%(税額軽減) |
教育訓練費の税務は中小企業の人材育成投資と教育訓練費の税務もご参照ください。
人材開発支援助成金の概要
人材開発支援助成金は、計画的な訓練を実施した事業主を支援する制度です。
- 職務に関連する専門的な知識・技能の訓練が対象
- 訓練経費・訓練期間中の賃金の一部を助成
- 複数のコースがあり、対象訓練・助成率が異なる
- 事前の訓練計画の提出など所定の手続きが必要
- 支給要件・上限額はコース・年度により改定される
助成率・上限・対象コースの最新情報は厚生労働省の公表内容をご確認ください。申請手続きは社会保険労務士の支援を受けることも有効です。
賃上げ促進税制との連携
賃上げ促進税制では、教育訓練費が前年度比5%以上増加し、かつ教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上である場合に、控除率が+10%上乗せされます(中小企業)。人材投資を増やすことで、賃上げ要件に加えてこの上乗せも狙えます。なお、令和8年度税制改正大綱では、中小企業向けの教育訓練費に係る上乗せ措置(+10%)を廃止する方針が示されています(くるみん・えるぼし等の両立支援に係る+5%は存置される方向です)。適用開始時期は事業年度によって異なり、公表資料でも取扱いが分かれているため、自社の事業年度でこの上乗せが適用できるかは、国税庁の最新情報をご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。適用の可否は事業年度の開始日によって異なるため、適用事業年度の取扱いは国税庁・中小企業庁の最新の公表内容を必ずご確認ください。
| 要件 | 効果(中小企業) |
|---|---|
| 賃上げ(増加率1.5%/2.5%) | 基本控除15%/30% |
| 教育訓練費5%以上増(かつ雇用者給与等支給額の0.05%以上) | +10%上乗せ |
| 両立支援要件 | +5%上乗せ |
適用ステップは賃上げ促進税制の実際の適用ステップと申告書記載例をご参照ください。
助成金と税制の併用の考え方
助成金(収入)と税制(税額控除)は制度が異なるため、それぞれの要件を満たせば併用を検討できます。ただし注意点があります。
- 助成金で補填された教育訓練費の取扱いを確認
- 税制の教育訓練費の範囲と助成対象経費の範囲は一致しない場合がある
- 助成金収入は益金(収入)計上が必要
- 計上区分の誤りが控除額に影響するため区分管理を徹底
併用時の計算は複雑になりやすいため、税理士による確認が重要です。
人材投資の会計・税務処理
| 項目 | 処理 |
|---|---|
| 外部研修費・講師謝金 | 原則として支出時の損金(必要経費) |
| 教材費・受講料 | 原則として支出時の損金 |
| 助成金収入 | 受給時に益金(収入)計上 |
| 教育訓練費の集計 | 賃上げ税制の要件判定用に区分集計 |
経費の区分管理は経費精算ルールの整備と社内規程の作り方も参考になります。
よくある質問
Q. 助成金はいつ収入計上しますか?
A. 原則として支給決定があった事業年度に益金計上します。申請から支給までに期間を要するため、計上時期のずれに注意が必要です。
Q. 小規模な研修でも助成対象になりますか?
A. コースごとに対象となる訓練時間・内容の要件があります。小規模でも要件を満たせば対象となり得ますが、計画的な実施と記録が前提です。
Q. OJTも対象ですか?
A. コースによってOJTを含む訓練が対象となる場合があります。Off-JTのみ対象のコースもあるため、実施形態に応じてコースを選ぶことが重要です。
まとめ
中小企業の人材投資は、厚生労働省の人材開発支援助成金(訓練経費・賃金の一部を助成)と、賃上げ促進税制の教育訓練費上乗せ(租税特別措置法第42条の12の5:+10%)を組み合わせることで、負担を抑えながら実施できます。助成金は収入として補填し、税制は税額を軽減するという効果の違いを理解し、それぞれの要件を満たすことが重要です。併用時は教育訓練費の範囲や助成金の益金計上など区分管理が複雑になるため、注意が必要です。なお、令和8年度税制改正大綱では、中小企業向けの教育訓練費に係る上乗せ措置(+10%)を廃止する方針が示されています(くるみん・えるぼし等の両立支援に係る+5%は存置される方向です)。適用開始時期は事業年度によって異なり、公表資料でも取扱いが分かれているため、自社の事業年度でこの上乗せが適用できるかは、国税庁の最新情報をご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。助成金の最新要件は厚生労働省の公表を、税制の最新要件は国税庁・中小企業庁の公表をご確認のうえ、個別事案は税理士・社会保険労務士にご相談ください。
参考にした一次情報(出典)
- 厚生労働省が公表する人材開発支援助成金など人材育成関連施策の案内
- e-Gov法令検索(デジタル庁)に掲載されている関係法令の条文
実務の現場から:当事務所には、人材育成にかかる費用と税制優遇の関係についてのご相談が多く寄せられます。教育訓練費の集計方法を決めておくことが適用の前提になります。
ご注意(免責事項):本記事は2026年8月3日時点の法令および公的機関の公表資料にもとづく一般的な解説です。税制・社会保険制度は改正されることがあり、同じ制度でも個別の事情によって取扱いが変わります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士など専門家にご相談ください。本記事の情報にもとづく判断により生じた損害について、当事務所は責任を負いかねます。
税理士法人みらい(税理士法人番号 第1218号)/〒202-0002 東京都西東京市ひばりが丘北3-4-1 みらいビル2F/TEL 042-422-7440/初回相談無料。昭和58年開業・平成18年法人化、ISO9001認証取得。元国税局OBを含む税理士4名と税務・会計スタッフを合わせた総勢17名の体制で、税理士法第33条の2の書面添付制度にも対応しています。