中小企業向けの賃上げ促進税制の教育訓練費の上乗せ(+10%)は、令和8年度税制改正で廃止され、令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは使えません。同日前に開始した事業年度は改正前の制度のままで、上乗せを使えます(改正法附則第50条)。
教育訓練費とは、企業が国内雇用者の職務に必要な技術や知識を習得させ、または向上させるために支出する費用のうち、法令で定めるものです(改正前の租税特別措置法第42条の12の5第5項第7号)。改正前の制度では、教育訓練費が比較教育訓練費の額(原則として前期の教育訓練費の額)より5%以上増え、かつ雇用者給与等支給額の0.05%以上であれば、控除率に10%が上乗せされます(同条第3項第2号)。中小企業向けの最大控除率は、令和8年4月1日前に開始した事業年度は45%(15%+15%+10%+5%)、同日以後に開始する事業年度は35%(15%+15%+5%)です。本記事では、中小企業の教育訓練費の範囲と税務実務を税理士法人みらいが整理します。
教育訓練費とは
教育訓練費は、税務上は租税特別措置法上の独立概念として扱われます。一般的な「研修費」「教育費」とは範囲が異なるため、税務メリットを受けるには区分管理が必要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法令 | 改正前の租税特別措置法第42条の12の5第5項第7号、同法施行令第27条の12の5第10項(賃上げ促進税制。令和8年4月1日前に開始した事業年度に適用) |
| 対象者 | 国内雇用者(役員・使用人兼務役員・役員の特殊関係者は除外) |
| 目的 | 業務に必要な技術・知識の習得・向上 |
| 会計処理 | 原則として研修費・教育研修費などの科目で損金算入(研修期間中の給与や社内講師の人件費は教育訓練費に含まれない) |
賃上げ促進税制の全体像は中小企業の賃上げ促進税制(2026年度)活用ガイドで詳しく整理しています。
賃上げ促進税制と教育訓練費上乗せ
2024年4月以後開始事業年度(中小企業は2024年4月〜2027年3月の期間)から、令和6年度改正後の賃上げ促進税制が適用されています。
その後、令和8年度税制改正(所得税法等の一部を改正する法律、令和8年法律第12号)で、中小企業向けの教育訓練費の上乗せ措置(+10%)は廃止されました。令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは上乗せがなく、最大控除率は45%から35%になります(基本15%、2.5%以上の上乗せ15%、くるみん・えるぼし等の上乗せ5%は維持)。同日前に開始した事業年度は改正前の制度のままで、教育訓練費の上乗せを使えます(改正法附則第50条)。
中小企業向けの控除率(事業年度の開始日による違い)
| 要件 | 令和8年4月1日前に開始した事業年度 | 令和8年4月1日以後に開始する事業年度 |
|---|---|---|
| 基本要件:雇用者給与等支給額が前期比1.5%以上増加 | 15% | 15% |
| 上乗せ①:2.5%以上増加 | +15%(合計30%) | +15%(合計30%) |
| 上乗せ②:教育訓練費が比較教育訓練費の額より5%以上増加し、かつ雇用者給与等支給額の0.05%以上 | +10% | 廃止 |
| 上乗せ③:くるみん・えるぼし認定等 | +5% | +5% |
| 最大控除率 | 45% | 35% |
1年決算の会社では、3月決算は2026年3月期(2025年4月1日開始)まで、9月決算は2026年9月期(2025年10月1日開始)まで、12月決算は2026年12月期(2026年1月1日開始)までが改正前の制度で、教育訓練費の上乗せを使える事業年度です。決算月別の整理と計算例は賃上げ促進税制の適用ステップと計算例|令和8年度改正対応で解説しています。
2024年改正で、中小企業者等が控除しきれなかった額を5年間繰り越せるようになりました。繰り越した額を使う事業年度でも、雇用者給与等支給額が前期を上回っていることが必要です。また、繰越額が生じた事業年度以後は、控除を受けない期も含めて毎期の確定申告書に明細書を添付します。中小企業の節税策全体は法人税の節税対策|中小企業が活用すべき制度もご参照ください。
対象となる支出範囲
改正前の租税特別措置法施行令(第27条の12の5第10項)と同法施行規則(第20条の10)では、教育訓練費は次のような費用とされています。令和8年4月1日前に開始した事業年度で上乗せを判定するときは、この範囲で集計します。
1. 外部講師等への支出
- 外部講師・指導員に対する報酬・謝金(教育訓練の計画や内容の作成を外部の専門家に委託する費用を含む)
- 外部講師の交通費・宿泊費
2. 外部施設等使用料等
- 外部の研修施設・会議室の利用料
- 研修用設備・備品の賃借料
- 研修用コンテンツの利用料(eラーニング等)
3. 外部委託訓練・研修参加費
- 研修機関への委託訓練費
- セミナー・研修への参加費
- 資格取得のための講習費(業務に必要なもの)
対象外となるもの
- 自社の役員・社員が講師を務める場合の人件費や講師料(講師への謝金が対象になるのは、外部から招いた講師に限られるため)
- 教材費・教科書の購入費(大学院などに授業料とあわせて支払うものを除く)、自社で教材やコンテンツを製作する費用
- 研修を受ける従業員の交通費・旅費
- 福利厚生的な研修(語学研修で業務関連性が薄いもの等)
- 業務上の調査・情報収集費
- 役員(使用人兼務役員を含む)の研修費
- 採用活動に伴う研修費(内定者研修等)
人材開発支援助成金との連携
厚生労働省の人材開発支援助成金は、中小企業の人材育成投資を促進する代表的な助成金です。主なコースは次のとおりです。
- 人材育成支援コース:OFF-JT賃金助成・経費助成
- 教育訓練休暇等付与コース:有給教育訓練休暇制度の導入
- 人への投資促進コース:デジタル人材・高度人材を育成する訓練、労働者が自発的に行う訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)など
- 事業展開等リスキリング支援コース:新事業展開に伴う再訓練
助成率・助成額はコースや企業規模、賃上げ要件の有無によって異なり、年度ごとに見直されます。適用にあたっては、厚生労働省が公表する最新の支給要領・パンフレットで最新の助成率と要件をご確認ください。
賃上げ促進税制と併用するときの2つの調整
人材開発支援助成金は賃上げ促進税制と併用できますが、助成金の種類に応じて次の調整が必要です。
- 給与等に充てる助成金(事業年度の開始日にかかわらず):訓練期間中の賃金助成など、給与等に充てるために受ける助成金の額は「補塡額」に当たり、雇用者給与等支給額と比較雇用者給与等支給額(前期の額)の計算で、給与等の支給額から差し引いて、増加割合と控除の対象となる増加額を求めます(租税特別措置法第42条の12の5第4項。改正前の条文では第5項)。中小企業庁のご利用ガイドブックは、人材育成支援コースのOff-JT(賃金助成)・OJT(実施助成)、教育訓練休暇等付与コース(教育訓練休暇制度)、人への投資促進コースの賃金助成などを、補塡額に当たる国の助成金の例に挙げています(いずれも給与等の支給額に対応する交付額に限ります)。
- 教育訓練費に充てる助成金(令和8年4月1日前に開始した事業年度):教育訓練費の上乗せを判定するときは、経費助成など教育訓練費に充てるために受けた助成金の額を、教育訓練費から差し引きます。
雇用調整助成金や産業雇用安定助成金などの「雇用安定助成金」は、この補塡額に含まれず、雇用者給与等支給額から差し引きません。雇用安定助成金を受けている場合は、控除の対象となる増加額の上限を、雇用安定助成金を除いて計算した増加額とする形で調整します(同条第4項第7号。改正前の条文では第5項第6号)。上の2つの調整では、助成金を受けた年と受けていない年を比べると増加割合や教育訓練費の額が変わるため、助成金と税額控除の両方を見込む場合は、決算の前に試算しておくと安心です。
実務対応とエビデンス管理
教育訓練費の上乗せを使う場合(令和8年4月1日前に開始した事業年度)は、教育訓練の実施時期・内容・対象となる国内雇用者の氏名と、費用を支出した年月日・内容・金額・相手先を記載した書類を作成して保存する必要があります(申告書への添付は不要。前期の分の書類も必要です)。次のような資料をそろえておくと集計しやすくなります。
- 研修実施記録:日時・場所・内容・参加者リスト・講師名
- 領収書・請求書:外部講師への謝金・研修委託費・受講料などの支払証憑
- 研修教材・テキスト:内容を確認できる資料の保存
- 勘定科目区分:研修費・教育研修費などの科目で他の費用と区分
- 賃金台帳との照合:受講者が国内雇用者であることの確認
申告時には、別表六(二十四)「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」と付表一、適用額明細書を確定申告書に添付します(令和8年4月1日以後に終了する事業年度は、国税庁が「令和8年4月1日以後終了事業年度分」として公表している様式を使います。2026年9月期・12月期のように改正前の制度が適用される事業年度も、この様式に記載します)。教育訓練費の明細は保存が要件で、申告書に添付する書類ではありません。電子帳簿保存への対応は電子帳簿保存の実務|中小企業の対応ステップもあわせてご参照ください。
税理士に相談したほうがよい場合
ご自身で判定できる場合も多い制度ですが、次のような場合は決算の前に一度確認しておくと安心です。
- 9月決算の2026年9月期や12月決算の2026年12月期など、令和8年4月1日前に開始した事業年度で教育訓練費の上乗せを使いたい
- 外部研修・eラーニング・社内研修が混ざっていて、教育訓練費に入る費用と入らない費用(教材費、受講者の旅費、社内講師の人件費など)を分ける必要がある
- 人材開発支援助成金を受けた(または受ける予定がある)ため、給与等の支給額から差し引く補塡額や、教育訓練費から差し引く額を計算する必要がある
- 役員の親族の従業員、使用人兼務役員、内定者など、国内雇用者に入るかどうかの区分が必要な人の研修がある
当事務所が担当すること:税理士法人みらいでは、決算・法人税申告の中で、教育訓練費の集計と対象・対象外の区分、賃上げ促進税制を適用できるかの判断と別表六(二十四)・付表の作成、人材開発支援助成金を受けた場合の給与等支給額・教育訓練費の比較計算の調整を行います。給与等支給額の比較計算と控除額の計算例は賃上げ促進税制の適用ステップと計算例|令和8年度改正対応、決算と申告だけのご依頼の範囲は決算だけ税理士に頼める?依頼できる範囲と、年1回の依頼で気をつけることで解説しています。ご相談はお問い合わせからどうぞ。
よくある質問
Q. 役員の研修費は教育訓練費になりませんか?
A. 賃上げ促進税制の対象は「国内雇用者」に限定され、役員(使用人兼務役員を含む)と役員の特殊関係者は除外されます。ただし損金算入そのものは可能です(業務関連性があれば)。
Q. 内定者向け研修は対象?
A. 内定者などの入社予定者は国内雇用者に当たらないため、内定者向けの研修の費用は対象外です。入社後に実施する新人研修は対象となります。
Q. 海外研修は対象?
A. 海外で行う研修でも、国内雇用者の職務に必要な研修であれば、研修の主催者に支払う受講料などは対象です。研修に参加する従業員の旅費や滞在費は教育訓練費に含まれません。海外出張に観光の要素が含まれる場合は、旅行期間の比などで按分し、業務に必要と認められない部分は原則として本人への給与として扱います(法人税基本通達9-7-9)。
まとめ
中小企業向けの賃上げ促進税制の教育訓練費の上乗せ(+10%)は、令和8年度税制改正で廃止され、令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは使えません(最大控除率は35%)。同日前に開始した事業年度(3月決算の2026年3月期、9月決算の2026年9月期、12月決算の2026年12月期など)は改正前の制度で、教育訓練費が比較教育訓練費の額より5%以上増え、かつ雇用者給与等支給額の0.05%以上であれば10%が上乗せされ、最大45%です。対象支出は外部講師謝金・施設利用料・外部委託訓練・研修参加費に限定され、社内講師の人件費や教材費、福利厚生的研修は除外されるため、勘定科目の区分管理が鍵となります。厚生労働省の人材開発支援助成金とも併用できますが、訓練期間中の賃金助成など給与等に充てる助成金は「補塡額」として、事業年度の開始日にかかわらず雇用者給与等支給額(前期の額も)から差し引いて、増加割合と控除の対象となる増加額を計算します。教育訓練費の上乗せを判定するときは、教育訓練費に充てた助成金の額を教育訓練費から差し引きます。中小企業向けの研究開発税制(研究開発税制(R&D税制)の活用メリット)と組み合わせた人材・技術の同時投資戦略も検討の余地があります。なお、個別事案は税理士にご相談ください。
参考にした一次情報(出典)
- 財務省「令和8年度税制改正の解説」(租税特別措置法等(法人税関係)の改正「十一 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度」)
- 国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」、タックスアンサーNo.5927-2・No.5932、「令和8年4月以降に提供した法人税等各種別表関係(令和8年4月1日以後終了事業年度等分)」(別表六(二十四)・同付表一)
- 中小企業庁「中小企業向け 賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック」(令和8年5月1日更新版)、「中小企業向け 賃上げ促進税制 よくあるご質問 Q&A」
- 国税庁 法人税基本通達9-7-9(業務の遂行上必要と認められる旅行と認められない旅行とを併せて行った場合の旅費)
- e-Gov法令検索(デジタル庁)租税特別措置法第42条の12の5(2026年10月時点の現行条文と令和8年改正前の条文)、租税特別措置法施行令第27条の12の5・同法施行規則第20条の10(令和8年改正前)
- 厚生労働省「人材開発支援助成金」
- いずれも2026年10月時点で確認
実務の現場から:当事務所には、設備投資や賃上げの前に「使える税制優遇はあるか」というご相談が多く寄せられます。適用要件と手続の期限を先に確認しておくことが、取りこぼしを防ぐ最大のポイントです。
ご注意(免責事項):本記事は2026年10月時点の法令および公的機関の公表資料にもとづく一般的な解説です。税制・社会保険制度は改正されることがあり、同じ制度でも個別の事情によって取扱いが変わります。実際のご判断にあたっては、税理士など専門家にご相談ください。本記事の情報にもとづく判断により生じた損害について、当事務所は責任を負いかねます。
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