法人成りの時期は、所得税と法人税の税率差だけでは決まりません。社会保険の加入、消費税の免税の条件、事業年度(決算月)の決め方で、適した時期が変わります。10〜12月に検討している場合、年内に設立して個人事業を年内に廃業すれば、個人の事業所得は今年分で区切れます。1月以降も個人で事業を続けると、来年分も個人の確定申告が必要です。
時期を決める4つの要素
法人成りの時期は、税率・社会保険・消費税・事業年度の4つを組み合わせて決めます。税率だけで判断すると、社会保険料の増加や消費税の扱いを見落としやすくなります。
| 要素 | 押さえておく事実 | 時期を決めるときに見ること |
|---|---|---|
| 税率 | 所得税は課税所得に応じて5%〜45%の7段階(このほか住民税・復興特別所得税。令和9年分からは防衛特別所得税も加わります)。法人税は資本金1億円以下の法人などで年800万円以下の部分が15%(令和9年3月31日までに開始する事業年度の特例。本則は19%)、超える部分が23.2%(一定の法人を除く)。令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは防衛特別法人税の申告・納付も必要です | 今年と来年の所得の見込み、役員報酬をいくらにするか |
| 社会保険 | 法人の事業所は、事業主のみの場合も含めて健康保険・厚生年金保険の適用事業所 | 役員報酬の額と保険料の負担、加入手続きの時期 |
| 消費税 | 新設法人の1期目・2期目は原則免税。ただし資本金1,000万円以上やインボイスの登録などで免税にならない | 取引先からインボイスを求められるか |
| 事業年度 | 事業年度は定款で定め、1年以内。決算月は自由に決められる | 設立月と決算月の組み合わせ(1期目の長さ)、繁忙期 |
法人化のメリット・デメリットそのものは法人成りのメリット・デメリットで整理しています。この記事では「いつ法人にするか」に絞って解説します。
年内に設立する場合と1月以降に設立する場合
個人の所得税は、1月1日から12月31日までの1年間の所得で計算します。法人成りした年は、1月1日から個人事業を廃業した日までの事業所得を、翌年の確定申告期間(原則2月16日〜3月15日)に申告します。そのため、設立の時期と個人事業をやめる時期で、個人の申告が変わります。
| 項目 | 年内(10〜12月)に設立し、個人事業も年内に廃業 | 1月以降に設立し、それまで個人で事業を続ける |
|---|---|---|
| 個人の事業所得の申告 | 令和8年分(1月1日〜廃業日)を2027年2月16日〜3月15日に申告。令和9年分に事業所得はない | 令和8年分を通常どおり申告し、さらに令和9年分(1月1日〜廃業日)を2028年の確定申告期間に申告 |
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 令和8年分の確定申告期限まで | 令和9年分の確定申告期限まで |
| 役員報酬(給与所得) | 設立した年に役員報酬を受け取れば、事業所得と合わせて令和8年分で申告 | 同じ扱いを令和9年分で行う |
| 準備期間 | 定款・登記・口座開設・取引先への連絡を年末までに進める | 準備に時間をかけられる |
法人の設立日は設立登記の日です(国税庁の届出の案内では「法人設立の日(設立登記の日)」)。年内の設立を目指す場合は、登記申請の日程から逆算して定款の作成・認証や資本金の払込みを進めます。どちらが有利かは、今年と来年の所得の見込み、決算月の選び方、準備にかけられる時間で変わるため、数字を並べて比べることをおすすめします。
年の途中で法人成りしたときの個人の手続き
国税庁は「事業主が個人事業の全てを新たに設立した法人に引き継ぐ場合」に提出する主な届出を一覧にしています。個人側で出すものは次のとおりです。
| 届出 | 対象 | 期限 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 廃業する人 | 廃業した年分の所得税の確定申告期限まで |
| 所得税の青色申告の取りやめ届出書 | 青色申告の承認を受けていた人 | 青色申告を取りやめようとする年の所得税の確定申告期限まで |
| 事業廃止届出書(消費税) | 消費税の課税事業者 | 速やかに |
| 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書 | 個人で従業員に給与を支払っていた人 | 廃止の事実があった日から1か月以内 |
※ 給与支払事務所等の廃止の届出は、国税庁「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」によります。
個人でインボイスの登録をしている場合、法人は法人として新たに登録申請をし、個人は廃業の手続き(事業廃止届出書の提出)をします(国税庁「インボイス制度に関するQ&A」)。在庫や設備、事業用の契約を法人へどう引き継ぐか(売買・賃貸など)も決めておきます。事業用の資産を対価を得て譲渡すると消費税の課税の対象になるため、個人が課税事業者の場合は個人の消費税にも関係します。
法人側の届出(法人設立届出書、青色申告の承認申請書など)と期限は、会社設立の費用と、設立1期目の税理士費用の目安にまとめています。
設立日と事業年度(決算月)の決め方
法人の事業年度は定款で定め、1年以内とされています。決算月は自由に決められるため、設立月と決算月の組み合わせで1期目の長さが決まります。
| 設立 | 決算月 | 1期目の長さ |
|---|---|---|
| 2026年12月 | 11月 | 約12か月(2027年11月まで) |
| 2026年12月 | 12月 | 約1か月(2026年12月まで) |
| 2027年1月 | 12月 | 約12か月(2027年12月まで) |
| 2027年4月 | 3月 | 約12か月(2028年3月まで) |
- 1期目を短くしすぎない:消費税が原則として免除される1期目と2期目を合わせた期間が短くなります
- 2期目の判定を確認する:2期目の免税は特定期間(原則として1期目の開始から6か月)で判定します。1期目が1年未満の場合は特定期間が異なる場合があります
- 繁忙期と決算を重ねない:法人税の確定申告は事業年度終了の日の翌日から2か月以内です
- 役員報酬の決め方:役員報酬を損金にするには原則として毎月同額で支給し、改定は事業年度開始の日から3か月を経過する日までに行います(役員報酬の決め方と改定時期)
消費税が免税になる条件
個人事業で消費税の課税事業者だった方でも、法人成りで設立した法人の基準期間の課税売上高に、個人事業者だった期間の課税売上高は含まれません(国税庁)。そのため法人の1期目・2期目は原則として免税ですが、次の場合は免税になりません。
- 期首の資本金が1,000万円以上の期
- 2期目で、特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合(給与等支払額で判定することもできるため、両方が1,000万円を超えると課税事業者)
- インボイス(適格請求書発行事業者)の登録をした場合(設立時から登録すると、原則として開業後2年間は課税事業者)
- 消費税課税事業者選択届出書を提出した場合
- 特定新規設立法人に該当する場合
取引先からインボイスを求められ、法人で登録する場合は、設立した課税期間の末日までに「課税期間の初日から登録を受けようとする旨」を記載して申請すれば、設立日にさかのぼって登録を受けたものとみなされます(新たに設立された法人等の登録時期の特例)。登録すると免税にはならないため、「免税期間を使えるか」は、取引先からインボイスを求められるかどうかで大きく変わります。
社会保険はいつから変わるか
法人を設立すると、社長1人の会社でも健康保険・厚生年金保険の適用事業所になります。代表者も、法人から労務の対償として報酬を受けていれば被保険者です。新規適用届は事実発生から5日以内に年金事務所へ提出します。社会保険の手続きは社会保険労務士の業務のため、グループの社会保険労務士法人みらいが担当します。
法人の健康保険に加入したら、国民健康保険をやめる手続きを市区町村で行います(西東京市では、脱退する事由が生じてから14日以内)。保険料は役員報酬の額にもとづいて決まるため、役員報酬の額と社会保険料をあわせて試算してから設立時期を決めます。
判断のためのチェックリスト
| 確認すること | なぜ確認するか |
|---|---|
| 今年と来年の所得の見込み | 所得税の税率の段階と、役員報酬の額を決める材料になる |
| 取引先からインボイスを求められているか | 法人で登録すると、設立時から課税事業者になる |
| 従業員を雇っている、または雇う予定があるか | 社会保険や給与支払事務所等の届出、雇用契約の切り替えが必要になる |
| 年内に登記・口座開設・取引先への連絡を終えられるか | 間に合わない場合は1月以降の設立と、決算月の組み合わせを考える |
| 決算月を繁忙期と重ねたくないか | 決算・申告は事業年度終了の日の翌日から2か月以内 |
| 許認可が必要な業種か | 個人の許認可は法人にそのまま引き継げないことがあり、法人での申請や承継の手続きが必要になる(建設業・飲食店などはグループの行政書士法人みらいが担当。介護保険の事業所指定の申請・届出は社会保険労務士の業務) |
| 借入・リース・賃貸借の契約が個人名義か | 法人名義への切り替えに相手先との手続きが必要になる |
当事務所の新設法人サービスパック
法人成りした1期目の税理士費用は、新設法人サービスパックの対象なら、設立時の各種届出を無料で作成・提出し、1期目の法人決算を月額顧問料のみで対応します。1年目の給与計算(3名まで)も月額顧問料に含みます。対象は、設立1期目の法人(年商・業種は問いません)、社員10名以下の法人、帳簿の入力をご自身で行っていただける方(必要な帳簿は当法人でご用意します)、2年以上顧問契約を継続していただける方です。月額顧問料は「新設法人の顧問料等報酬料金表」のとおりで、全表は会社設立の費用の記事とサービス案内に掲載しています。
よくある質問
Q. 12月に法人を設立した場合、個人の確定申告はどうなりますか?
A. 1月1日から個人事業を廃業した日までの事業所得を、令和8年分として2027年2月16日から3月15日までに確定申告します。設立した年に役員報酬を受け取った場合は、その給与所得も合わせて申告します。個人事業の開業・廃業等届出書は、廃業した年分の所得税の確定申告期限までに提出します。
Q. 決算月はいつにするのがよいですか?
A. 設立した月の前月を決算月にすると、1期目がほぼ1年になります。1期目を短くすると、消費税が原則として免除される1期目と2期目を合わせた期間が短くなります。繁忙期と決算・申告の時期(事業年度終了の日の翌日から2か月以内)が重ならないかもあわせて確認します。
Q. 法人成りすれば消費税は2年間かかりませんか?
A. 資本金1,000万円未満で設立した法人は、1期目と2期目が原則として免税です。ただし、インボイスの登録をした場合、2期目の特定期間の課税売上高と給与等支払額がいずれも1,000万円を超えた場合、特定新規設立法人に該当する場合などは免税になりません。なお、個人事業者だった期間の課税売上高は、法人の基準期間の課税売上高には含まれません。
Q. 個人事業の廃業届はいつまでに出せばよいですか?
A. 国税庁の案内では、個人事業の開業・廃業等届出書は、廃業した年分の所得税の確定申告期限までに提出します。消費税の課税事業者は事業廃止届出書を速やかに、従業員に給与を支払っていた場合は給与支払事務所等の廃止の届出書を廃止の日から1か月以内に提出します。
まとめ
法人成りの時期は、税率・社会保険・消費税・事業年度の4つで決まります。10〜12月に検討している場合、年内に設立して個人事業も年内に廃業すれば、個人の事業所得は令和8年分で区切れます。1月以降も個人で続けると、令和9年分も個人の確定申告が必要です。決算月は設立月の前月にすると1期目がほぼ1年になり、消費税は資本金やインボイスの登録の有無で免税になるかが変わります。設立前に、今年と来年の数字を並べて比べてください。
国税庁「No.2020 確定申告」「No.2260 所得税の税率」「No.5759 法人税の税率」「No.5211 役員に対する給与」「廃業する場合」「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」「法人税、地方法人税及び防衛特別法人税の申告」「No.6501 納税義務の免除」「No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」「No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき」「No.3240 個人が事業用建物等を譲渡した場合の消費税」「インボイス制度に関するQ&A(問11)」「法人税のあらましと申告の手引」、日本年金機構「適用事業所と被保険者」「新規適用の手続き」、西東京市「国民健康保険の届け出」。本記事は2026年10月時点で公表されている法令等にもとづく一般的な解説です。税制は改正されることがあり、個別の事情によって取扱いが異なります。実際のご判断にあたっては最新の公表内容をご確認いただくか、税理士にご相談ください。本記事の情報にもとづく行為により生じた損害について、当事務所は責任を負いかねます。
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