開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)とは、個人が事業を始めたことを税務署へ知らせる書類で、開業した年分の所得税の確定申告期限まで(通常は翌年3月15日)に提出することとされています(所得税法第229条。令和8年1月1日以後に開業した場合。令和7年12月31日以前の開業は開業の日から1か月以内でした)。あわせて提出したいのが青色申告承認申請書で、原則として事業開始日から2か月以内(その年の1月15日以前に開業した場合は3月15日まで)に出さないと、その年は青色申告特別控除(最大65万円)を受けられません。本記事では、届出の書き方・期限・青色申告のメリットを整理します。
【令和8年度税制改正】中小企業者等の少額減価償却資産の特例は、取得価額の基準が30万円未満から40万円未満に引き上げられました。令和8年4月1日から令和11年3月31日までに取得した資産は40万円未満、令和8年3月31日までに取得した資産は30万円未満が基準です。実際のご判断にあたっては国税庁の最新の公表内容をご確認いただくか、当事務所までお問い合わせください。
個人事業を始めるとき、どんな届出が必要?
個人事業を始めるにあたっては、税務署や自治体への届出が必要です。届出には期限があるものがあり、特に青色申告承認申請は期限を過ぎると初年度から青色申告ができなくなるため注意が必要です。
開業届とは?いつまでに出す?
提出期限と届出先
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 届出名 | 個人事業の開業・廃業等届出書 |
| 提出先 | 納税地を所轄する税務署長 |
| 提出期限 | 事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで(土日祝日等の場合は翌日) |
| 提出方法 | 書面(窓口・郵送)またはe-Tax |
開業届の記載事項
- 納税地(自宅住所または事業所の所在地)
- 氏名、生年月日、マイナンバー(個人番号)
- 職業、屋号
- 届出の区分(開業)
- 所得の種類(事業所得、不動産所得等)
- 開業日
- 青色申告承認申請書の有無
- 消費税に関する届出書の有無
- 給与等の支払の状況(従業員を雇う場合)
屋号について
屋号は必須ではありませんが、事業用の銀行口座を屋号名で開設する場合などに便利です。開業届に記載した屋号は、後から変更することも可能です。
青色申告承認申請書はいつまでに出す?
個人事業主が青色申告を行うためには、事前に「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。
提出期限
| ケース | 提出期限 |
|---|---|
| 新規開業の場合 | 開業日から2ヶ月以内 |
| 1月1日~1月15日に開業した場合 | その年の3月15日まで |
| 白色申告から切り替える場合 | 青色申告をしたい年の3月15日まで |
期限を過ぎた場合
青色申告承認申請書の提出が期限を過ぎた場合、その年度は白色申告となります。青色申告の恩恵を受けるのは翌年度からになりますので、開業届と同時に提出することを強くお勧めします。
青色申告のメリットとは?
1. 青色申告特別控除
青色申告の最大のメリットが、所得から一定額を控除できる「青色申告特別控除」です。
| 控除額 | 要件 |
|---|---|
| 65万円 | 正規の簿記の原則(複式簿記)による記帳+貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付+e-Taxで申告または電子帳簿保存 |
| 55万円 | 正規の簿記の原則(複式簿記)による記帳+貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付 |
| 10万円 | 上記以外の青色申告者(簡易簿記でもOK) |
【令和9年分以後の見直し】令和8年度税制改正により、令和9年分以後の青色申告特別控除は、複式簿記で記帳し期限内にe-Taxで申告する場合に65万円、さらに一定の要件を満たす電子帳簿保存等を行う場合に75万円となります(国税庁リーフレット「令和9年分以後の所得税について」)。現行の令和8年分は65万円・55万円・10万円の区分です。これから開業する方は、会計ソフトとe-Taxで申告する前提で準備しておくと安心です。詳しくは青色申告特別控除が75万円へで解説しています。
たとえば、所得税率20%の場合、65万円の控除で所得税が約13万円、住民税が約6.5万円、合計約19.5万円の節税効果があります。
2. 少額減価償却資産の特例
一定の要件を満たす青色申告者(個人事業主を含む)は、令和8年4月1日から令和11年3月31日までに取得した取得価額40万円未満(令和8年3月31日までに取得したものは30万円未満)の減価償却資産を、業務の用に供した年に全額経費として計上できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象資産 | 取得価額40万円未満の減価償却資産(令和8年3月31日までの取得分は30万円未満) |
| 年間上限 | 合計300万円まで |
| 対象者 | 一定の要件を満たす青色申告者 |
パソコンや事務機器など、1台あたり40万円未満(令和8年3月31日までの取得分は30万円未満)のものはこの特例を活用して即時経費化できます。
3. 純損失の3年間繰越控除
事業で赤字(純損失)が出た場合、その損失額を翌年以後3年間にわたって各年分の所得から控除できます。
たとえば、1年目に200万円の赤字が出て、2年目に300万円の黒字が出た場合、2年目の所得は300万円 - 200万円 = 100万円として計算できます。白色申告の場合は原則としてこの繰越控除が認められません。
4. 青色事業専従者給与
生計を一にする配偶者や親族が事業に専従している場合、その給与を経費に算入できます。白色申告の場合は「事業専従者控除」として配偶者86万円、その他の親族50万円が上限ですが、青色申告なら届出をした金額の範囲内で実際に支払った給与を全額経費にできます。
「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要
青色事業専従者給与を経費にするためには、「青色事業専従者給与に関する届出書」を、適用を受けたい年の3月15日まで(新規開業の場合は開業から2ヶ月以内)に税務署に提出する必要があります。給与額は届出した金額を超えることはできず、かつ労務の対価として相当と認められる金額でなければなりません。
5. 貸倒引当金の計上
事業上の売掛金や貸付金などの債権について、貸倒引当金を必要経費に算入できます。個別評価(回収不能が見込まれるもの)と一括評価(期末の売掛金等の合計額の5.5%以下)の2つの方法があります。
開業時に提出すべきその他の届出書
- 給与支払事務所等の開設届出書:従業員に給与を支払う場合、給与支払事務所等を設けてから1か月以内に提出(令和8年1月1日以後に開業した場合は、開業届に給与等の支払の状況を記載しても、この届出書は別に必要です)
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書:常時10人未満の給与を支払う事業者は、源泉所得税の納付を年2回にまとめられる
- 消費税課税事業者選択届出書:設備投資が多い場合などに、あえて課税事業者を選択する場合に提出
- 都道府県税事務所への届出:個人事業開始申告書(自治体により名称が異なる)
青色申告と白色申告の比較
| 項目 | 青色申告(65万円控除) | 白色申告 |
|---|---|---|
| 特別控除 | 最大65万円 | なし |
| 記帳方法 | 複式簿記 | 簡易な記帳 |
| 赤字の繰越 | 3年間繰越控除可 | 原則不可 |
| 少額減価償却 | 40万円未満即時経費化(令和8年3月31日までの取得は30万円未満) | 10万円未満のみ |
| 家族の給与 | 届出額の範囲で全額経費 | 配偶者86万円、他50万円が上限 |
| 貸倒引当金 | 計上可能 | 個別評価のみ |
まとめ
個人事業の開業時には、開業届の提出(開業した年分の確定申告期限まで)と、先に期限が来る青色申告承認申請書の提出(原則として開業の日から2か月以内)を忘れずに行いましょう。青色申告は手間がかかるように思えますが、会計ソフトを活用すれば複式簿記も比較的容易に対応でき、最大65万円の特別控除をはじめとする多くのメリットを享受できます。
開業に関する届出や青色申告の導入についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 開業届はいつまでに提出すればよいですか?
A. 開業した年分の所得税の確定申告期限(通常は翌年3月15日。土日祝日の場合は翌日)までに、納税地を所轄する税務署へ提出します(令和8年1月1日以後に開業した場合。令和7年12月31日以前に開業した場合は開業の日から1か月以内でした)。青色申告承認申請書は原則として開業の日から2か月以内と先に期限が来るため、開業届とあわせて早めに提出すると手続きの漏れを防げます。従業員に給与を支払う場合は、給与支払事務所等の開設届出書を設けてから1か月以内に提出します。
Q. 青色申告承認申請書の提出期限はいつですか?
A. 原則として事業を開始した日から2か月以内です。ただし、その年の1月15日以前に開業した場合は、その年の3月15日が期限になります。すでに事業を営んでいる方が翌年から青色申告に変える場合は、適用を受けようとする年の3月15日までに提出します。期限を過ぎると、その年は白色申告になります。
Q. 青色申告にすると具体的にどんなメリットがありますか?
A. 青色申告特別控除(複式簿記かつe-Taxまたは電子帳簿保存で最大65万円)、赤字を翌年以降3年間繰り越せる純損失の繰越控除、生計を一にする親族へ支払う給与を経費にできる青色事業専従者給与、取得価額40万円未満(令和8年3月31日までに取得したものは30万円未満)の少額減価償却資産の特例などが利用できます。
参考にした一次情報(出典)
- 国税庁が公表するタックスアンサー(よくある税の質問)および各種パンフレット等の公表資料
- e-Gov法令検索(デジタル庁)に掲載されている関係法令の条文
実務の現場から:当事務所には、開業直後の方から「まず何を届け出ればよいか」というご相談が多く寄せられます。届出は期限を過ぎると有利な選択ができなくなるものがあり、開業前後の早い確認が肝心です。
ご注意(免責事項):本記事は2026年8月3日時点の法令および公的機関の公表資料にもとづく一般的な解説です。税制・社会保険制度は改正されることがあり、同じ制度でも個別の事情によって取扱いが変わります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士など専門家にご相談ください。本記事の情報にもとづく判断により生じた損害について、当事務所は責任を負いかねます。
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