税理士並河の税界よもやま話③(H20.6.29)

今回は税務調査に伴う「企業秘密」と「守秘義務」についてお話します。
税務調査は各税法に規定されている「質問検査権」に基づいて行われ、調査を受ける納税者は、大事な企業秘密まで知られ、それが外部に漏れはしないかと不安になります。
筆者がかって税務調査を行った際、納税者側と企業秘密についてのやりとりで印象的だった二つ事例を紹介いたします。
外資系食品輸入会社へ臨場した際、海外にある親会社から輸入した関係書類の提出を求めたところ、これはトップシークレットであり過去の税務調査でも見せたことがないと言って断りを入れてきた。
このまま引き下がるわけにも行かず輸入原料について物と金の流れを調べないと仕入れの実態が確認できず調査は終えることが出来ないこと、調査官は専門的な化学式等には興味がなく守秘義務があるので漏らしたら罰せられる等粘り強く説得したところ海外の親会社からコピーをしないことを条件に資料提示の承諾を得たため調査が一歩前進できた。
もう1件は食品製造を行っている上場企業の工場へ臨場した時のことです。
技術畑出身の工場長に当工場の概況を説明してもらい工場の中を見せていただきたいと型通り言ったところ、その工場長は「それは困る。 この工場は新製品を作っておりその製法については企業秘密であり部外者には見せられない」と言った。
工場を調査に来て工場内を見てはいけないというのは全く想定外の反応であり、同行した本社経理担当ともどもびっくりしてしまい、税務調査の趣旨と守秘義務を説明して理解をしてもらい所期の目的を達した。
「守秘義務」は公務員、医師、弁護士、税理士等多数の職業において法律によって定められています。
これらの法律上の守秘義務を課せられた者が正当な理由なく職務上知り得た秘密を漏らした場合処罰されます。
元東京地検特捜部検事・弁護士の田中森一氏の著書「反転」(副題「闇社会の守護神と呼ばれて」)には自分がかって手がけた政財界の数々の事件が実名で書かれていて、読んでいて興味深く面白い内容でしたが、守秘義務はどこへ行ったのかという感じでした。
時々新聞等マスコミに個別実名で税務調査のニュース記事が出ることがありますが現場の調査担当者からソースが漏れることは99%ないと信じています。
何故ならば国税職員には各税法が定めたものと国家公務員法によるものと守秘義務が二重に張られており、これをおかすと仕事が出来なくなることを体で知っているからです。
※法人税法163条「法人税の調査に関する事務に従事する者又は従事していた者がその事務に関して知ることが出来た秘密を漏らした又は盗用したときはこれを2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処す」
※国家公務員法100条①「職員は職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」