税理士並河の税界よもやま話⑭(H21.5.26)

今回は税務上とかく話題になる交際費について述べたいと思います。
(現在平成21年度税制改正の追加案として中小企業の交際費定額限度額を400万円から600万円への引き上げが検討中で決定されると4月決算法人から適用予定です。)
★交際費課税について
国税庁が毎年発表している会社標本による法人企業の交際費は平成19年度では3兆3800億円となり、前年度より2514億円減少した。
平成4年度の交際費が6兆2078億円なので交際費の減少傾向は止まらないようだ。
交際費課税の立法趣旨は本来の必要経費の範囲を超え、冗費・濫費を生じる弊害を防止し、資本の充実、蓄積を促進するという目的から、法人の支出した交際費等の一定部分を損金不算入とした。(資本金1億円超の法人は何故か全額損金不算入)
法人税の税務調査において交際費に関しての指摘は多いが、以前飲食費について法令通達がないため長い間実務では一人当り3000円基準が定着していた。
その後いつの頃か3000円という金額にとらわれず、支出目的や支出した場所等で判断して交際費の課税がなされていた。(識別が困難の時は3000円基準援用)
しかし平成18年度の税制改正でいきなり一人当り5000円以下の一定の飲食代は交際費の範囲から除かれることになった。
企業側からみれば交際費課税を免れる範囲が明らかに増えたので節税となり、歓迎すべきことかもしれないが、税法の交際費の本質論から言えば改正前の取扱の方が理にかなう。
★談合(金)はなくなるか?
税務上の交際費は一般の会計上のそれより範囲が広く、違法支出金である談合金やいわゆる総会屋対策費も含まれている。
ゼネコンがらみの公共工事ではこの談合金の外に贈収賄や政治家への闇献金、受注工作資金といったダーティマネーが現れ税務調査で脱税問題となっている。
談合防止策として国土交通省では「公共工事の入札及び契約の適正化をはかる指針」が平成18年5月閣議決定し、その内容は・透明性の確保・一般競争入札の拡大・総合評価の拡充・適正な施行体制確保のためダンピングの防止等が盛り込まれている。
入札が一部の競争力のある業者に偏ることが危惧され、和を尊ぶわが国では昔から共存共栄を図るための談合が必要悪として存在しており、なくなることは難しそうだ。
昨今はどの企業にも法律上内部統制やコンプライアンスが要請されており、特に税金が原資の公共事業で工事後の国民の生命安全が関係する建設業者は自らを律してほしい。
★けしからん課税が交際費課税に変身する時
税務調査担当者は、違法で不公正と思われる取引を発見すると「これはけしからん」と思い、何とか理屈をつけて本能的に否認(課税)したいと考えるものですが、現行法令通達に該当する規定が無い時に便宜上使われるのが交際費課税である。
不公正取引に限らず新たな経済事象に対し税法通達は後手になるのが常です。
課税に際し、現場は孤立しないように部内の審理はもちろんのこと国税庁(霞ヶ関)の了解を取り付け、場合によってはマスコミ、世論を味方につけようとします。
このけしからん課税の具体例がバブル期に証券会社や信託銀行等で大口顧客に行った損失補てんである。
今は損失補てんや一任勘定は法律で禁じられていますが、当時は法人主体の大口顧客と証券会社等が営業特金を使い、担当レベルで「握り」と称して事前に(多くは非公式に)運用利回りを約束し、実績が行かなければ損失補てん金をこっそりと支払った。
株式相場が右肩上がりの時は問題が露呈しないが、下降局面になると約束した配当には達しないため顧客から半ば公然と見返りを要求され、かなり強引に他で捻出した利益を付替えて補填し、取引のルールもモラルも混乱して業界の社会的信用は失墜した。
税務調査では大口顧客に対する損失補てんは得意先に対する利益供与として交際費として業種横並び課税を行ったため、企業から課税処分に対する異議等は全く出なかった。
しかしこのようなけしからん課税は租税法律主義の観点から見ると危うい面があり、世の中の風向きが変わり逆風になれば、税務は下手をするとハシゴを外されることもあるので格好よく税を万能薬として使うことには慎重を期すべきである。
2001年の中央官庁再編ではとかく権力集中との批判を浴びた大蔵省は財務省となり、金融庁は内閣府の外局として分離されたのは時代の流れで仕方がないと思う。
バブルがはじけて20年ほどたち証券会社の営業姿勢は一見変わったような気もするが、判断能力に疑問がある高齢者に自己責任といってデリバティブを組み込んだ高額な仕組債を買わせているのを見ると改めてけしからんと感じてしまった。