税理士並河の税界よもやま話【32】「法人調査に思うこと」(H22.11.16)

 ★法人税調査に思うこと
3月決算の上場企業の9月中間決算は大方出揃い、全体では昨年悪かった分持ち直して回復気味ですが、日本経済の先行きは依然海外同様に不透明な状況です。
先般国税庁から発表された平成21年度(平21.7~平22.6)の法人申告件数278万社に占める黒字申告割合は過去最低の25.5%でした。
昭和52年に50%を割って以来年々低下し、黒字法人は4社にたった1社しかないという深刻な状態になっています。
法人税の申告漏れがあったのは調査した約14万社のうち10万社で、そのうち3万社ほどに不正経理の指摘がありました。
黒字法人がこれほど少ないと税務当局は調査先の選定を大いに悩むことになりますが、法人税だけでなく消費税、源泉所得税、印紙税といった他税目を同時調査して調査効率を上げるなどの試みをしています。
税務調査にはノルマがあるのではと巷間よく言われますが、ノルマの定義を調査の際の増差所得や追徴税額を意味する場合、当局の回答を待たずとも「ノー」といえます。
民間会社の営業等のノルマは営業目標の数値化をもって努力目標とするので、普通通り行われる分には何ら問題がありません。
しかしノルマが達成不可能なものや、厳しい信賞必罰によって行き過ぎがあると営業担当者は大変苦しむことになりますが、それでも顧客等に及ぶことは少ないと考えます。
ところが国税をはじめとする公的機関がノルマを課せた場合、その弊害は担当者レベルを超えて納税者にまでストレートに及ぶため、やってはいけないことなのです。
税務当局が年間の調査件数を計画してそれを遂行することはノルマではなく、申告納税制度の下で調査を通して法人との一定の接触割合をキープし、申告水準を維持するための当然の施策といえます。

 ★ある上場企業を調査した時の話
その会社は都心から比較的遠い距離に位置しており、過去に問題点が少なかったせいか、調査は短期間で終わっており、深度ある調査がなされていないようでした。
今回は初日の段階で前回までの調査事績の増差所得が把握された。
すると翌日の朝、調査窓口の経理担当者が「もう数字は出たのだから、調査は今日で終わりにしませんか」とまじめな顔で言い出した。
そして昼食は通常は会議室で弁当ですが「今日のお昼はホテルのレストランで豪華にいきましょう」と誘ってきたのでこちらも少々戸惑ってしまった。
今までの調査が会社にそうした不用意?な発言をもたらしたのかもしれませんが、税務調査を少し甘く見ているようです。
こちらは予め準備した検討事項の解明のため予定した日程どおりじっくりと調査を続け、バブル崩壊直後とあってか問題点がいろいろ出て、当初1週間の調査予定が倍に伸び、結果的に1ケタ多い数字で終了しました。

 ★調査のストーリー性
税務調査は私にとって、昔NHKテレビに「私の秘密」という番組の冒頭で、今は亡き高橋圭三アナが「事実は小説よりも奇なりと申しまして世の中には云々」といったようなことを職業として日々体験でき、教えられることが多くあってありがたいものでした。
事実確認(真相解明)のために如何に証拠資料を集めるかは調査のカギとなりますが、これは警察や検察の捜査も本質的には同じことです。
最近、地検特捜部で起きた押収資料のデータ改ざん事件は司法・行政の信頼をえらく失墜させましたが、「国策捜査」などによくあるように「始めに結論ありき」からスタートしてストーリーが描かれ、資料がそれに都合よく集められるというのは本末転倒で危険極まりなく恐ろしいことです。
税務調査でも不審取引があれば様々なストーリーを描きますが、資料が集められ調べが進んでいくうちにだんだんと結論が見えてくるものです。(ネックは時間的制約)
調査担当者は米倉涼子が演じるテレ朝のドラマ「ナサケの女~国税局査察官」のように格好よくはいかなくとも、正直者が馬鹿を見ないようにしっかりと調べていただきたい。
そして税の追徴だけでなく指導等もまじえ、会社が元気を保てるような懐の深い調査を望みたいものです。