赤池三男第十一話「- 寡ふ控除 -」(H24.5.25)

 所得税法第2条(定義)と第81条に寡婦(夫)控除の規定がある。現行での所得控除額は37万円である。
 寡婦控除の規定は、戦後直後からあるらしい。戦争で夫を亡くして、女手一つで残された子供を育てる…。苦労は並大抵でないから税控除をして生活を救おうと、税の軽減を図るのが目的である。
 寡婦に成った主な原因は戦争である。
 未亡人と呼ばれ、子供を抱えて生活するのも、職業が無い、有っても少ない額の収入で、残された子供を何人も育てる。言語に絶する苦労であっただろう。
 税法では、その様な苦労している戦争未亡人の生活を助けるために、税軽減の為に控除を設けた。名のごとく、寡婦控除である。戦争未亡人で、子沢山の家庭は救われた。
 寡婦の定義は、所得税法第二条(定義)30号で「夫と死別し、もしくは夫と離婚した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者—合計所得が500万円以下である者」とある。
 ところが昭和44年頃の国会で寡(ふ)は女ばかりではない!男でも居る。妻を失った夫も、寡婦と同じ苦労をしているから、税制上、寡婦と同じく寡(夫)控除を設けよと、税法改正を申し出た議員がいた。
 法改正は、政府ではない。当時の社会党只松祐司衆議院議員(埼玉県一区・当選3回・平成8年逝去)による議員提案である。
 彼が大蔵委員会で初めて提案した時に、居並ぶ議員ばかりか、政府側も驚いた。女は弱い(当時)ものである。男は如何なる難関震苦もいとわない。それが何だ!男を救え?男は、そんな弱いことでどうする!。日本男児ではないか。
 それに対して、税の軽減を設けよ、とは。政府側の大蔵省の一部でも顔を顰めた人も何人かいた。
 男一匹!どんな苦労をいとわない日本男児が、税制上の優遇措置を主張するのか!それでも日本男児か!と陰口まで出た。
 しかし、実際の生活は”夫”の場合も大変だったようだ。仕事を終えて家に帰れば炊事、洗濯の家事仕事、今のように電気炊飯器や洗濯機も充分普及していないころである。そしてPTAなどの世間付合い—。
 委員会の開催している中で、数年前に流行した「♪逃げた女房には、未練はないが、お乳欲しがるこの子がかわいい♪—」一節太郎さんの浪曲子守歌を思い出す、等の冷やかしもあった。
 只松議員は委員会で執拗な提案だった。週三回の大蔵委員会開会に、来る日も来る日も「寡夫控除、寡夫控除」に、遂に大蔵省も折れた。そして、法案が成立した。
 寡(夫)の規定は、「妻」を「夫」に置き換えればいい。同法第2条の31号「妻と死別し—妻の生死の明らかでない者—」。金額も(妻)と同じである。
 今考えれば、男女同権の走り的考えだったろう。
 流行りのシングルマザーは、死別でも、離婚でもない。しかし、女手一つで子供を育てることはこれまた並大抵ではない。シングルマザーに寡婦控除を認めている地方自治体が有るという。夫の場合シングルマザーは、あり得ないのだろうか?