赤池三男第二十話「- 質問取り -」(H25.3.25)


 第183回通常会が、真っ最中である。自民党が政権を奪回。安部さんが総理大臣になってから、日本中に活気が出たと国民は現政権に期待を持っている。
会期は、6月26日までの150日間。1月28日に開会されて平成24年度補正予算が成立。25年度予算審議が活発である。本会議や予算委員会がラジオやテレビで中継されるから、国民は興味を持って国会議論を身近に知る事が出来る。
 近頃の国会では見ることは少ないが、かつては、総理大臣や所管大臣に代わって、霞が関の局長クラスが答弁する事が多くあった。
 嘗ては、質問内容が大臣でなくても答弁できる事や、細かすぎて大臣に代わって局長級の役人が答弁に当ることがあった。現在では無くなったが、省庁で答弁に当る役人を「政府委員」として任命していた。国会中継のテレビを視聴して「良くもまあ、よどみなくすらすらと…。流石、東大出のお役人!」と国民は感心していた。
 ところが、これには訳が有る。国会で質問する議員が前以て①誰に質問するか、相手を指名する。②質問内容を通告することが、法で義務付けられているのである。質問する議員は、主に野党が多い。
 政府役人は、どの様に答弁するか。前日から勉強する。当日の委員会で、委員長に「○○政府委員!」と呼ばれれると、如何にも頭の良さそうな、カッコいい役人が静々と答弁席にむかう。政府委員席から答弁席に向かう時、ちょっと眼鏡を直しながら、官庁用語を羅列して答弁する。
 例えば、質問議員は議長に「財務大臣に、税制について質問する」と委員会に出席を通告する。すると、財務省では、大臣に代わって政府役人が、質問する議員に「先生!明日の財務大臣への質問は?」と、いわゆる「質問取り」をする。新聞記者の取材と同じである。
 質問取りは、官庁でも優秀な若手(官僚の卵)を起用する。前以て質問内容を教える事は、八百長だ!と言う人もいる。前述の様に法的通告義務が有るし、もし、前以て知らせておかないと、細かい数字や事実関係を答えられない。
 即答出来ないと、審議が進まないのでお互いに困るのである。「後で調べて…」では、審議が停滞する。質問議員の持ち時間がもったいないし、重要法案等の審議が予定より遅れてしまう。
それに、たまに質問議員に勘違いや勉強不足が有って、委員会で強調すると、議員さんが恥を掻いてしまうことも有るから、親切に事前に軌道修正することもある。
 質問取りの際、通告議員に簡単に接する事は少ない。議員は、議員会館に居るとは限らない。院内で会議、陳情受け、選挙区に帰省中、など事情が有って、すれ違いが有る。
 やっと質問事項を取り終えると、財務省に持ち帰り、省内所管局に割振り「答弁書」を作成するのである。(この辺の経緯については、拙者「花のお江戸で」(監修:税理士法人みらい)で記述してある)
 作成を割り当てられた局の部署では、英知を集めて答弁書作りをする。数字や事実関係を、こと細かに調べる。答弁書は、所管大臣の意向に沿っていなければならない。政策と違った答えは困る。そして、官庁用語や横文字が押し並ぶ。「…極めて遺憾であると認識している」「法第何条では、その様な記述は見受けられない」「政府のシュチュエーションでは…」
 答弁書を役者の例にすれば、台詞(せりふ)の台本である。委員会の雰囲気で、アドリブな答弁をしなければならないことも多々ある。役人の頭の見せ所である。
 さて、答弁書でも表現の違いがある。質問議員の主張が正論で、政府も同調しなければならない事項がたまに有る。その時は「ご意見は、前向きに検討させて頂く」。強烈な口調での主張であるが、とても妥協できない場合「先生のご意見は、時間を掛けて検討させて頂く」となる。どちらもメンツがあるから、即には同調しない。
 これからも続く国会中継を、こんな背景を知ってテレビをご髙覧されると、面白さが一層増します。
 
編集注:花のお江戸で 本を掲載
 
「花のお江戸で:元木っ端役人の泣き笑い」の改定版