消費税は、税負担の公平を図るとともに国民福祉の充実等に必要な歳入構造の安定を図るため、消費に広く薄く負担を求めることとし、昭和63(1988)年12月に創設され、税率3%でスタートしたのは平成元(1989)年4月1日のことでした。従来我が国の間接税は、個別消費税を中心とする体系でありましたが、欧米諸国の多くでは既に広く物品及びサービスの消費一般に対する課税、いわゆる一般消費税を採用していました。我が国では「一般消費税」「売上税」の挫折を経て消費税が実現したのです。税率は平成9(1997)年4月から5%(うち1%は地方消費税)に引き上げられ、平成26(2014)年4月から8%となり現在に至っているところです。
平成29(2017)年4月からは税率が10%に引き上げられることが確定していますが、これに合わせて導入が考えられているのが軽減税率です。食料品など暮らしに欠かせない品物に課す消費税率を、収入の少ない人たちに配慮して例外として低く抑えようとする制度です。現在は「生鮮食品」にとどめめたいとする一方、「酒類を除く飲食料品」まで幅広く対象とする両論の綱引きが続いているところです。もちろん軽減税率の対象品目によって増税で得られる税収が異なり、社会保障に充てる財源が上下することになります。財務省の試算では、軽減税率の恩恵のうち7割は中高所得者層に集中し、低所得者より高所得者に有利となると分析しています。
軽減税率は、食料品など生活必需品がその対象になりますが、一口に食料品といってもぜいたくな高級牛肉など数多くあり、高級か高級でないかの線引きは簡単ではありません。加えて事業者に多大な事務費用が発生することと一律の税率に比べ税収のロスが生ずることが明らかです。諸外国の標準税率と軽減税率の分け方をみますと、ドイツではハンバーガーは店内飲食用はぜいたく品持ち帰りは生活必需品と区分しており、カナダでは5個以下のドーナツは5%、6個以上は0%と、数が少ないとその場で食べる外食とみなされてぜいたく品扱いとなっています。
かつての売上税法案の議論でも、軽減税率適用の生鮮食品、例えば高級牛肉をペットの餌とした場合軽減税率が適用になるのかといった珍問答があったことを思い出します。売上税導入に失敗した一つの理由として、例外としての非課税分野をいろいろ作ったことが挙げられていますが、現行消費税は原則はすべて課税にして、非課税を極力減らしているのが特色ともなっています。今や消費税は将来の基幹的な税に育ちつつあり、軽減税率を導入するにしてもどう説明して納税者、消費者に納得してもらうかが肝要であると考えます。
税理士 松 尾 正