本年4月の「平成28年熊本地震」では、14日最大震度7でマグニチュー ド(M)6.5の地震が発生した翌日、気象庁は「今後3日間に震度6弱以上の『余震』が起きる可能性は20%」と公表しました。ところが、翌16日より大きなM7.3の地震が発生したのです。「余震20%」の表現で公表した結果、多くの人たちが「あとは余震だから大したことはない」と危険性は低いと信じ、自宅に戻ったりとどまったりしてその後の「本震」で命を落とすなどの被害が拡大しました。当時、余震とは「本震のあとに来るもので本震ほど激しくない」というのが常識的であったと思われます。「あとで起きた地震こそ本震であった」と言われても、時すでに遅しでした。
政府の地震調査委員会が過去563回の内陸地震を調べたところ、約6%で最初の地震を上回る規模の地震が発生していたことが判明しました。同委員会では「最初の大きな地震よりさらに大きな地震が発生することは頻繁にあるとは言えない」とする反面、「まれにはあり得ることを呼びかけるのが適当だ」と報告し、加えて最初の揺れが最も強いのか否か「発生直後に見極めることは難しい」ともあり、専門家の苦悩が見て取れます。
9月1日は「防災の日」、毎年全国各地で防災訓練が行われます。大正12(1923)年9月1日の正午ごろ、関東地方に起こった「関東大震災」はM7.9、家屋の全半壊25万戸以上、焼失44万戸以上、津波による流失868戸、死傷者20万人以上、行方不明4万人以上という甚大な被害をもたらしました。この「関東大震災」の惨事を教訓とし、国民の防災意識を高めるために、昭和35(1960)年に「防災の日」が創設されました。
「平成28年熊本地震」を踏まえた政府の地震調査委員会の報告を受けて、気象庁は発生予測の見直しを行い、8月中旬に大地震発生後の注意喚起に当たり「余震」という言葉は使わないと発表しました。「余震」というとどうしても「最初より大きな揺れは来ないと受け止められる」との理由からです。今後は地震発生から1週間以内は「最初の地震と同規模の地震に注意」、その後は「震度6弱以上の地震の発生確率は、平常時の30倍」というような注意喚起に改められます。今年の「防災の日」の防災訓練では、過去の大地震から得た教訓に基づいた訓練のほか、今後気象庁の大地震発生後の注意喚起に「余震」という言葉は使われないということが周知徹底されたと思います。
税理士 松 尾 正