東北・東日本では、この5月は記録的な暑さでした。群馬県館林市では5月21日、35.3度の今年全国で初めての猛暑日を記録し、東京近辺の各地でも30度以上の真夏日となりました。6月に入りあと10日もすれば1年中で最もうっとうしい梅雨期がおよそ1か月続きます。梅雨明けのころの7月25日が今年の「土用の丑の日」となり、昔からこの日に滋養のあるものを食べる習慣がありました。特にウナギに人気が集中し始めたのは、江戸中期売れずに困っているウナギ屋に平賀源内が「本日丑の日」のはり紙を出すように助言したのがきっかけであったと伝えられています。以来ウナギは夏の風物詩で、夏の和食を代表する蒲焼きとなって、「土用の丑の日」は全国のウナギ専門店が繁盛するようになりました。
日本人が長年食べ続けてきたニホンウナギは、平成26(2014)年に国際自然保護連合(IUCN)がレッドリストで絶滅危惧種に指定しました。その理由として「30年間で50%以上減ったから」といいますが、私たちが食べるウナギの99%以上は「養殖物」です。天然の稚魚「シラスウナギ」を採取して大きく育てているもので、卵から育てる「完全養殖」は未だ実用化されていません。日本の川を下ったニホンウナギは、マリアナ諸島付近の海域で産卵し、稚魚のシラスウナギとなって日本の河川に戻ってきて成魚になることは分かっていますが、産卵の謎など多くが解明されずウナギの完全養殖の実用化を目指す研究者たちを悩ませています。2年前のこと、東京大学の研究グループは、人工的にふ化させたニホンウナギの赤ちゃんが稚魚であるシラスウナギにまで育つ生存率を向上させる技術を開発し、生存率を約2倍にまで高めましたが、それでも完全養殖の実用化には至っていません。
日本人がウナギを好む理由の一つに、食文化があります。ウナギの栄養に詳しい早稲田大学研究所の矢沢一良教授によれば、「高品質のたんぱく質で、ビタミンA,D,Eが多く、疲労回復や体力の維持に効果があり、夏バテの回復に理想的な食材である」と解説しています。とはいえ、シラスウナギの漁獲量は、この50年間で約200トンから10トン以下に激減し、価格は高騰を続けています。ウナギ専門店では並みのうな重が4000~5000円と高値であり、ある新聞社が「ウナギをこの1年間に何回くらい食べたか」の聴き取り調査をしたところ「1度も食べなかった」という回答が34%にのぼり、最多数であったとあります。
ニホンウナギの完全養殖の実用化が加速して、蒲焼きが再び身近なごちそうになることを願いながら、この夏を元気のうちに過ごしたいものです。
税理士法人みらい 代表社員
税理士 松 尾 正