平成24(2012)年4月22日新潟県・佐渡で放鳥トキのひなが確認され、日本の自然界でトキのふ化が確認されたのは36年ぶりのことでした。翌4月23日には同じ巣の中で新たに2羽のひなが確認され、5月5日に2組目、5月17日には3組目と次々にひなが確認されて合計8羽の野性のトキが生まれました。5月25日には野性では38年ぶりに最初のひなが巣立ち、6月21日には今季誕生したひな8羽がすべて無事に巣立ちました。今回のひなの誕生は、平成11(1999)年中国から雄の「友友」と雌の「洋洋」が贈呈され、日本初の人工繁殖で成鳥となった親鳥が自然界で営巣してふ化したものです。平成22(2010)年には3回目の放鳥にむけて佐渡トキ保護センターで訓練中であった9羽が、保護ゲージの中にテンが入り込んで襲われるという痛ましい事故については未だ記憶にあるところです。
トキ(学名:ニッポニア・ニッポン) は、羽根を広げた姿が淡いピンク色で「朱鷺色」と呼ばれる翼と湾曲した長いくちばしが特徴の鳥です。日本には既に奈良時代にトキがいたという記録が残っており、江戸時代末期長崎のオランダ商館のシーボルトが日本の動植物の標本を集め、オランダに送った中にもトキの標本があったそうです。こうしたことから学名が日本にちなんだものとなったといわれています。
トキは、羽根の色が美しいがために剥製にすると珍重されることから、乱獲されてきました。更にかつてトキは水田を踏み荒らすとして農家からは目の敵にされ、害鳥として駆除の対象となったこともあったそうです。個体数の減少が著しくなってあわてて昭和27(1952)年に国の天然記念物に指定し、昭和35(1960)年には国際保護鳥に選定されました。こうした保護対策を講じたにもかかわらず、昭和56(1981)年には国内最後のトキが5羽になってしまいました。これを捕獲して人工による繁殖に努めましたが、ひなの誕生・巣立ちまでに至らず、平成15(2003)年日本最後の野性産トキ「キン」が死んでしまい日本でのトキは絶滅してしまいました。
一度絶えた野性の復活には、計り知れない苦労の連続であったことは容易に想像することができます。一度途絶えたトキとの共生の歩みは始まったばかり、野性復帰という目標のためには人間がトキに餌を与えないなど、人間が余計な手出しをしないことが肝心であるといいます。いま佐渡トキセンターのほか東京の多摩動物公園などで併せて200羽のトキが人工飼育されていますが、次々と放鳥され2世3世・・・へと命のリレーを続け、美しい朱鷺色の大きな鳥が佐渡に限らず全国各地の空を飛び回るようになるのはこれからが本番といえるでしょう。
トキ(朱鷺)(H24.7.26)
税理士法人みらい
代表社員税理士 松尾 正