税理士並河の税界よもやま話④(H20.7.29)

今回は税務調査の際の事前通知と無予告調査の話です。
税務調査をする場合必ず事前通知をするという税法上の規定がなく、現金商売や不正計算が想定される資料情報等があると無予告調査が行われることがあります。
予告なしの現況調査といってもマルサの「強制調査」とは違い、あくまでも「任意調査」ですから納税者の同意、協力なしには行えないものです。
抜き打ち調査であるためその際に機密メモ、裏帳簿、簿外の預金・現金、仮名預金の三文判、白紙領収書、貸金庫の鍵等不審物と思われるものが見つかることが多々あります。
無予告現況調査で発見した不審物から不正計算の手口の解明に向け迅速に調査が進めるわけですが、なにせ無予告なので予期せぬハプニングやトラブルがつきものです。
筆者がむかし調査官の時代に体験した2つの事例を披露します。
(事例その①)現金商売の会社を代表者宅、店舗、メイン銀行と三ヶ所に人数を振り分け、筆者は先輩調査官と二人で代表者宅へ意気込んで乗り込みました。
自宅の玄関を開けてもらい税務調査で伺いましたと告げて中に入ったとたんそこにいきなり代表者の遺影、遺骨、仏壇が目に飛び込んできた。
しまったと思っても時既に遅く、代表者の奥さんから「主人が亡くなり、つい先日葬儀を終えたばかりです」と聞かされ思わぬ展開にはたと困ってしまった。
その時同行した先輩が「本日は調査でお邪魔したのですが社長さんがお亡くなりになっていることを知らずに大変失礼をいたしました。今日はお線香を上げてすぐに帰ります」
とお詫びを述べ、焼香を済ませて早々に退席したが、本当にバツの悪い思いをした。
(事例その②)風俗関係の現金商売の会社にやはり何班かに分かれ、筆者は5~6名と共に事務所兼店舗に臨場した。
その店舗では前夜に店長以下全員が閉店の解雇通知を受け、10名近い従業員は朝まで自棄酒を飲んでいた。
そんな内部の事情をつゆ知らずいきなり「法人税の税務調査を行います」と宣言したとたん「なに! そんなの関係ねえ」といったかどうかは定かではないが、従業員達が興奮して暴れ出し、近くにある椅子やゴミ箱を手当たり次第調査官に向かって投げつけた。
調査官は身の危険を感じて逃げ惑い幸い怪我もなく済んだが、一時は恐怖で修羅場の様相を呈していた。
そのうち顧問の税理士が現場に到着して改めて調査の仕切りなおしが行なわれたが、一時はどうなることかと案じられたものでした。
無予告調査はこの2つの事例にもあるように調査する側にはリスクを伴うものでありその実施に際してはくれぐれも慎重を期していただきたい。
一方調査を受ける側からは税務調査には特効薬はなく、正しい記帳を日々積み重ね「備えあれば憂いなし」というありきたりな言葉が至言といえそうです。