ウナギの完全養殖

 農林水産省所管の独立行政法人「水産総合研究センター」は、本年4月8日「悲願であったウナギの完全養殖に成功した。世界最先端を独走する研究成果である。」と 発表しました。翌日には農林水産省の副大臣が同センターを視察し、「ここは非常に大切な役割を果たしている。」と評価しました。ウナギの完全養殖は21年間の試行錯誤の末の成功だそうで、平成14(2002)年約30年かけた近畿大学のクロマグロの完全養殖成功に続いて水産資源保護のための快挙に拍手喝采を送ることにします。
  
 昨年11月からはじまった現政権の目玉とされる「事業仕分け」、無駄な事業を見直すという趣旨の下に、第1弾の各省庁の予算要求額にはじまり以後今年に入って独立行政法人、公益法人と対象が広げられました。公開の下で行われたため、関係省庁などの関係者が戦々恐々として対応する状況がテレビ、新聞などを通して広く国民に伝えられました。独立行政法人の事業仕分けの対象候補には当初「水産総合研究センター」が入っていましたが、ウナギの完全養殖成功の発表後に決定した対象法人のリストからは除外されていました。同センター関係者間では「ウナギで頑張ったから、仕分けの対象から除かれた。」とささやかれています。
 日本人が大好きなウナギ、世界の全需要の70%を占めるのが日本です。現在市場に出回っているウナギの99%が養殖されたものであり、ウナギ養殖の歴史は 130年にも及ぶそうです。天然のシラスウナギ (稚魚) を海岸や河口で捕獲し、養殖いけすなどで育てたものが市場に供給され私たちの口に入ります。謎に包まれているウナギの生態、日本で養殖されるシラスウナギの生まれ故郷は太平洋のかなたマリアナ諸島付近であり、黒潮に乗って 2,500㎞以上の旅をしながら 5~6 ㎝に成長して日本近海に到着します。日本の河川などで過ごした成魚が太平洋を南下して、産卵場であるマリアナ諸島付近に至るまでの行動は未だわかっておらず、自然界でウナギの産卵現場を目撃したという記録もありません。このシラスウナギが年々不漁となってきて久しく、捕獲量は昭和45(1970)年ごろの10%程度になっているといいます。近年ヨーロッパ諸国などからの輸入に頼っていますが、捕獲制限などにより今後の輸入が危ぶまれてきているといわれています。
 古くから土用の丑の日 (今年は 7月26日) には夏バテしないようにウナギを食べる習慣があり、毎年この時季になるとウナギの値段が気になるところですが、ウナギの完全養殖に成功したとはいえ、大量生産技術が整って実用化され市場に出回るまでにはまだまだ時間がかかりそうです。完全養殖したクロマグロはようやく市場に出はじめましたが、完全養殖したウナギが日常的に食卓に上るときが待ち遠しいものです。
税理士法人みらい 代表社員
税理士 松 尾 正