税理士並河の税界よもやま話⑪(H21.2.24)

個人の確定申告は今がたけなわですが、税に関する関心が高まるこの時期に決まって脱税の記事が新聞等マスコミを賑わすようです。
脱税といえばマルサとなるので今回は査察(マルサ)についてのお話です。
★今は懐かしい映画「マルサの女」
故伊丹十三監督の映画「マルサの女」が上映されたのは日本経済がバブル進行中の1987年(昭和62年)でした。
最近この映画のビデオを借りて見てみたが、アップテンポな展開や、税を隠す側とそれを攻める側との人間的葛藤がリアルに表現され、よく出来た映画だと改めて感じました。
かって私が国税に勤めていた時、「職業は?」と聞かれ、「国税の職場です」と答えると「ああマルサですか」と言われた事が何度かありました。
マルサは国税犯則取締法にもとづき裁判所の許可文書を受けて強制調査を行う査察官を言うので、これに対して通常の調査は受忍義務があるとはいえ任意調査となります。
この映画は日頃は世間で煙たい存在と思われている国税局、税務署のイメージアップに寄与し、現場職員の士気高揚に大いに貢献しました。
東京国税局の査察部は五百名を超える大所帯ですが、そのうちマルサの女といわれる女性査察官はほんの20名前後で査察はやはり男性の職場といえます。
★マルサの神様といわれた人
私が昔、税務署から国税局調査部に異動して新任者研修を受けた時の話です。
大勢の研修生がいる中で居眠りをしていた者がいたかどうかは定かではありませんが、研修の講師がいきなりテーブルをバーンと叩いて、「寝れるものなら寝てみろ!」と大声を出したので一同は飛び上がらんばかり驚いて神妙に講義を聴いた記憶があります。
その時の講師がマルサの神様といわれ、ロッキード事件や数々の脱税事件を手がけ多く辣腕伝説を残した北島孝康氏でした。
先頃の重要な国際会議終了後の記者会見で居眠り?をして辞任した某財務金融相を見たら、北島氏はどんな「喝!」を入れるのか想像したくもなります。
同氏は映画「マルサの女」の指南役もされ、昭和62年に麻布税務署長を最後に退官されて、税理士をやっていましたが平成18年に惜しくもお亡くなりになりました。
★最近の脱税白書の特徴
ここ5年間の査察の着手件数は200~220件で、1件あたりの平均脱税額は1億2千万円~1億6千万円、また告発率は70~75%といった数字となっています。
税目別の告発件数で消費税が過去5年間に3件、6件、10件、23件、30件と急激に増加しているのが目立ちます。
消費税の脱税は法人税、所得税に連動した非違というのではなく、消費税独自の仕組みを悪用した詐欺まがいの手口が多いそうです。
例えば①設備、資産の購入は一度に課税仕入れとなることに着目した還付の悪用 ②人件費は不課税だが、派遣等の外注では課税仕入れとなることを悪用 ③輸出は免税であるため、国内売上を輸出に仮装して課税仕入れを不正に還付といったように振込み詐欺のような計画的なものが目に付きます。
脱税はよく直接被害者のいない犯罪といわれますが、正直者が馬鹿をみないような社会のルールを守るため、厳しい環境の中で頑張っているマルサの人たちにささやかなエールを送りたいと思います。