「♪あたまを雲の上に出し・・・ふじは日本一の山」だれもが知っている文部省唱歌「富士山」を思わず口ずさんでしまいました。この唱歌は、明治43(1910)年児童文学者巌谷小波という人の作詞によるもので、当初のタイトルは「ふじの山」でしたが今日まで広く親しまれています。「みななろう(3776)日本一」と標高を語呂で覚え、幼児が描いてもすぐそれとわかる山、それが富士山です。静岡県側から眺めても山梨県側から眺めても、どこから眺めても正面のように見えます。その富士山が遂に「富士山ー信仰の対象と芸術の源泉」という名称で、日本では17件目となるユネスコの世界遺産に登録されることが決定しました。
富士山は「日本の国家的象徴で、その影響は今や国家的意義をはるかに超えて及んでいる」とは、世界遺産登録についてユネスコに勧告している審査機関の国際記念物遺跡会議 (イコモス) の評です。古くから信仰の対象であると同時に、絵画をはじめとした芸術の題材となって文化も育んできたという富士山の普遍的な価値が高く評価されました。大衆に親しまれている銭湯のペンキ絵はともかく、葛飾北斎の「富嶽三十六景」などは世界的な傑作といわれています。
世界遺産は、昭和47(1972)年人類の宝を守ることを目的として、ユネスコ総会で条約が採択されました。世界遺産には 3種類あって、貴重な自然が残っている「自然遺産」が 188件、歴史的な建物や遺跡の「文化遺産」が 745件、「自然」と「歴史」の両方に価値があるとされる「複合遺産」が29件とこれまでに世界で 962件が登録されているところです。日本は平成 4(1992)年に条約を批准し、現在文化遺産として「法隆寺地域の仏教建造物」など12件、自然遺産として「屋久島」など 4件が既に登録されています。
世界遺産に登録されると、景観や環境の保全が義務づけられ、周辺の開発も制限されます。富士山には、ひと夏に約 300万人が入山しそのうち30万人以上が登頂していますが、世界遺産となっては入山者が急増することが容易に予測されます。先に自然遺産に登録された小笠原諸島では、10年をかけて 1日当たり 100人までの入島規制、15人に 1人のガイドを付けるなどの準備をしてきましたが、静岡・山梨両県の受け入れ体制は十分とはいえないようです。清掃活動は10年以上続けられて登山者のマナーが向上し、五合目から先のゴミはずい分と減少しているものの、樹海や河口湖周辺は以前と変わらないそうです。日本一の富士山が、「世界の宝」となりました。これからは富士山の入山者の抑制や入山料の徴収、罰則の適用などルールづくりを万全にして、日本は環境先進国であることも世界に誇示していきたいものです。