赤池三男第28話「-強行採決-」(H25.12.26)

 新聞の見出しが踊る。
12月6日朝日新聞「秘密保護法案 また強行」
 写真は、特定秘密保護法案の強行採決の模様が出ている。
 参議院特定秘密保護法特定秘密保護法特別委員会中川雅治委員長の机に、野党の委員が激しく詰め寄って抗議している場面。写真では、暴力的な光景に見える。言葉から暴挙に見えることもあるし、報道も批判的に報ずる。

 強硬採決は法案の審議が停滞して、成立が見込み薄になると、与党委員長の基に成立を目論んで行われる。国会の会期末になるとやむを得ず、という判断である。野党が審議や採決に加わらない時行われる「単独採決」も同義語だろう。
 強行採決は、強行する方は興味本位で実行するわけではない。
 議会制民主主義のもと、悩んで行う場合が多い。野党の審議引き伸ばしや採決拒否に対応するための策だ。
 新聞写真で見るのは、まだ、柔らかい表現。テレビカメラだともっと迫力がある。机を叩く音、怒号や足音などドタバタの音声が入るからだ。
 現場では更に迫力がある。議員さんのワアワア聞き取り不能の声。コップが壊れる、速記者用の机上に駆け上る音。物が壊れる音。速記者が手の甲に靴のまま登られて骨折したこともある。暴力沙汰では、与党も負けない。老体議員に代わって、若手の威勢のよい議員が差し替わる。
 ある年の国会で、強行採決が行われた。体の小さな委員長が、大きな椅子に座って、採決の

宣言文を読もうとした時、大相撲出身の浜田(山)野党議員が、椅子ごと抱え上げて、委員長を場外に運び出して仕舞った。その時は、度肝を抜かれたが、あとで大笑いになった。
 昭和45年酒税法改正時に参議院大倉委員会での”強行採決”を委員会室で経験した。会期末の当日、本会議終了まであと7時間しか残っていない。
 参議院委員会室では議長を前に、右側に12人の自民党委員、野党は審議に応じていない、左側に空席の12席。
 自由民主党所属委員長と12人は額に脂汗を滲ませて、微動だにせず。じっと前を見たまま。正午からこの状態。たまに委員が交代する。差替えは、議員の小用の理由もあるが、老齢な委員に変わって、活きのいい体力のある若手議員に差し替える。
 時計針は7時を指しているから残り時間は5時間。突然、何故か、野党の議員が入室。野党議員の一人が、質問を再開した。与党も政府側も、思わず、ホッ!
 質問が20分経過したら、強行採決するという噂が出た。噂は本当だった。質問中に、突然審議が止められて、委員長の口から「採決」の声が発せられた。議場にいる大蔵大臣も動乱に巻き込まれるかもしれない。政府側も強行採決の混乱から、大臣を守らねばならない。
 体力ある若手議員を政府席に待機させていた。「採決いたします」の声が発せられる前に、野党議員が委員長席に殺到!バリバリと机や椅子が壊れる音。大臣はその瞬間に、与党議員に守られて廊下に出ていた。
 折角待機した若手議員は、ビックリ放心して、役に立たなかった。