絶滅の危機にあったアホウドリの安定繁殖のために、伊豆諸島の鳥島から約350㎞離れた小笠原諸島の聟(むこ)島に移住させる活動が軌道に乗ってきたと報じられました。アホウドリは、日本最大級の海鳥で翼の開帳2.4m、体重は4~5㎏にも達します。聟島を繁殖地とする理由は、明治時代の乱獲以前の繁殖地であったこと、火山の噴火の恐れがないことなどが挙げられています。絶海の孤島は場所が限られている反面、外敵が来ることができないためアホウドリが集団で安全な子育てができ、人間の手で踏みにじられた楽園を復活できると判断されたからでした。
アホウドリは、かつて伊豆諸島や小笠原諸島、尖閣諸島などに数百万羽というおびただしい数が生息していましたが、海外の羽毛需要によって乱獲が続けられ、先の大戦後には一時絶滅したと宣言されました。その後昭和26(1951)年に、中央気象台(現気象庁)の職員が伊豆諸島の鳥島で約10羽のアホウドリの生息を確認し、鳥類研究所の研究者などと営巣地を整備するなどして、現在では約5000羽にまで増加させました。しかし鳥島は活火山です。大規模噴火が起これば、アホウドリは再び絶滅する恐れがあります。そこで生まれたばかりのヒナを別の島に移住させることが始められました。その移住先が無人島の聟島でした。平成24(2012)年までの5年間で70羽のヒナを移送した結果、平成28(2016)年には親鳥となったアホウドリに初めてヒナが生まれ、以来繁殖活動は軌道に乗り始めたとみられています。
国内の鳥類に限ってみても、天然記念物に指定されたトキ(朱鷺)は、平成15(2003)年に絶滅してしまいました。現在生存しているトキは、平成11(1999)年に中国からつがいが贈呈され、日本初の人工繁殖で成鳥となったトキが自然界で営巣してふ化したものです。また世界中で沖縄県北部にだけ生息している飛べない鳥ヤンバルクイナは、毒蛇のハブを駆除する目的で移入されたマングースや野良ねこなどに捕食され、減少の一途をたどっています。更には絶滅危惧種に指定されているニホンライチョウは、上野動物園などで卵のふ化には成功したものの、ヒナに野生と同じように腸内細菌を構成する適切な餌となるものが与えられず、現状では人工飼育の成功例が少なく野生復帰は難しいとみられています。
「今や生き物の絶滅の時代」という専門家もいて、世界でも例を見ない大規模なアホウドリの保護活動を続けている公益財団法人山階鳥類研究所の出口研究室長は「アホウドリなどの鳥類に限らず、生物の絶滅を防ぐためには一般市民が生き物に関心を持ち、理解を示すことが重要である」と話しています。
税理士法人みらい 代表社員
税理士 松 尾 正