東京都の貴重な水源であり国内最大規模の水道専用貯水池に、憩いの場としても親しまれている小河内貯水池があります。建設から既に50年以上が経過、貯水量は約1億8540万㎥(東京ドーム約150杯分)で、ここで貯められた水は多摩川に放流され、水道水の源水として利用されています。多摩川の水源開発の歴史をみますと、江戸幕府三代将軍家光の時代、参勤交代制度の確立などで江戸の人口が増加し、水需要が急増してきました。幕府は新しい水源を多摩川に求め、「玉川上水」を開発する計画を立てます。その工事は、多摩川の羽村取水口から四谷大木戸までをつなぐ約43㎞で、標高差は92mほどしかない緩い傾斜のために難航しますが、1653年工事開始から1年足らずで四谷大木戸に到達しました。
玉川上水から引かれた水は、江戸の町の地下に張り巡らせた木樋(もくひ)や石樋(せきひ)を通って町の「上水井戸」に貯められ、釣瓶という道具で汲み上げられて使われました。常に安全な水を給水するためには、整備や保守、管理が必要となり、その費用を賄うため身分や祿高などに応じて課金制度が設けられ、今日のような受益者負担の水道事業の原型が確立されたのです。
こうした東京都の水道は、昭和30年代までは多くを多摩川水系に依存してきましたが、その後急激な需要の増加に対応するため利根川水系の水資源開発に合わせて利根川水系への依存度が高められてきました。現在東京都の水源はほとんどが河川水で、78%が利根川水系及び荒川水系、19%が多摩川水系となっています。
水道水の消毒用に塩素が使われていますが、残留塩素はカルキ臭の原因にもなりますので、おいしい水づくりのためには塩素注入量を適正に逓減した水道水が供給されなければなりません。東京都では水道水の「おいしさに関する水質目標」を定め、残留塩素濃度を1ℓ当たり0.1㎎以上0.4㎎以下とするなどの目標値を設定し、常時水質がチェックされています。マンションなどでは水道水を一旦貯水槽に貯めてからポンプなどで給水するという貯水槽水道が多くありますが、貯水槽内での滞留時間が長くなると適正な残留塩素濃度が維持できなくなります。このため貯水槽水道方式から「直結給水方式」の普及が促進されています。
東京都の構想では、今後100年間安全で安心な水道水を安定的に供給し、「世界に誇る安心水道」を目指しているところです。数年前、時の都知事が水道蛇口からコップに注いだ水をうまそうに飲み干し、東京都の水道水がいかに安全でおいしいか、より多くの人々に蛇口から水を飲んで欲しいとPRしていたテレビ映像を見たことがあります。ニューヨークやパリなど先進的な海外都市では、水道水を飲むことが洗練されたライフスタイルのひとつとされているといいます。
税理士 松 尾 正