みらい通信「69」・「63」

 大記録は予期せぬ時についえるものでしょうか。大相撲九州場所 2日目に横綱白鵬の連勝が「63」で止まりました。白鵬は平幕稀勢の里の突き落としに体勢を崩され、最後に寄り切られました。白鵬は今年の初場所14日目から白星を積み重ね、以後春場所、夏場所、名古屋場所、秋場所の 4場所連続して全勝を続け、11月の九州場所では初日はあぶなげなく栃ノ心を下して連勝を「63」としたものの、 2日目にして第35代横綱双葉山の持つ歴代 1位の「69」連勝に及ばないことになりました。
 歴史的ともいえる金星を挙げた稀勢の里、年齢は白鵬より 1歳若い24歳、関脇と平幕の間を行ったり来たりの期待はずれの大関候補で最近は白鵬に11連敗中でした。しかしかつては白鵬に 3連勝したこともあったのです。その決まり手はいずれも突き落とし、稀勢の里にとっては「伝家の宝刀」で他の力士からはその強烈さを恐れられていたもので、今回の白鵬に対してもこの突き落としでバランスを崩し、正攻法で勝利に結びつけたものでした。白鵬の敗因は、相手の最も警戒すべき技を忘れていたといえるかも知れません。
 野球賭博問題で未曾有の混乱に陥った今年の大相撲界、 7月の名古屋場所を前に大関琴光喜の解雇、幕内 6人が謹慎休場の処分や NHK生放送の中止、優勝力士への天皇賜杯授与の自粛などがありました。全勝優勝した白鵬の表彰式は、賞状と優勝旗の授与だけのわずか 5分で終了したものでした。晴れの場である表彰式で白鵬は憂色の大相撲を思ってか、両眼からあふれる涙を押さえ切れない姿がニュースで流されたものです。こうした中で連勝してきた白鵬は稀勢の里に破れましたが、相撲ファンの多くは大記録が守られた安堵感、勝たせてやりたかったという思い、「半分うれしく、半分寂しい気持ち」といった複雑な心境ではなかったかと思います。
 71年前の昭和14(1939)年 1月15日、安藝ノ海の外掛けに屈し、連勝を「69」で止められた「昭和の角聖」といわれた第35代横綱双葉山、「双葉の前に双葉なく、双葉のの後に双葉なし」と半ば神聖化された大横綱でした。この連勝記録に挑んだ白鵬の戦いは、ひとまず仕切り直しとなりました。双葉山の69連勝は本場所が 1年 2場所の時代で偉大なものです。安藝ノ海に破れた双葉山は、「我、いまだ木鶏たりえず」と自省したと伝えられていますが、年 5場所、年齢も25歳とまだまだ成長の過程にある白鵬には、今回の歴代 2位63連勝を踏まえて木鶏を目指す挑戦を続けて欲しいものです。
 一方の稀勢の里、平成の大横綱を土俵の外へ寄り切った出足と馬力はひときわ輝いていました。双葉山の70連勝を止めた安藝ノ海は、後に第37代横綱となっています。技の粗さが出世を阻んできたと言われてきた稀勢の里ですが、久しぶりの日本人の大関、横綱昇進が期待されます。

税理士法人みらい 代表社員

税理士  松尾 正